ディズニー データベース 別館

「ディズニー データベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)の別館です。日本の誰か一人にでも響けばOKな記事を書いていきます。

ディズニー日本語吹替史~長編アニメ編~

ディズニーの長編アニメーション作品における各作品の吹替事情をご紹介していきます。基本的な考え方については、「ディズニー日本語吹替概論」も合わせてご参照いただければと思います。

disneydb23.hatenablog.com


目次

白雪姫(1937年)

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白雪姫 王妃 備考
1957年初公開版 富沢志満 北林谷栄
1980年再公開版 小鳩くるみ 里見京子 Blu-ray・DVD・ビデオに収録

以上の2パターンです。

初公開版はビデオ化されていないので、いわゆる「完全絶滅」です(このパターンは今後もしばしば出てきます)。よって、ディズニーの公式ソフトに収録されている吹替はすべて再公開版です。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ピノキオ(1940年)

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ピノキオ ジミニー ゼペット 備考
1958年初公開版 佐々木清和 坊屋三郎 三津田健
1983年再公開版 初沢亜利 肝付兼太 熊倉一雄
旧版 後藤真寿美 江原正士 内田稔 ※旧ビデオに収録
新版 辻治樹 肝付兼太 熊倉一雄 Blu-ray・DVD・新ビデオに収録

初公開版は絶滅済です。

1983年の上映時に吹替が全編新録されました。同時期に東京ディズニーランドがオープンしており、そちらのアトラクションとほぼ同キャストとなっています(ただし、ピノキオは堀江美都子)。

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ピノキオ(旧版)

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こちらもピノキオ(旧版)

ポニー、バンダイから発売された旧版は現在では非公式の吹替であるため封印されています。困難ですが入手すれば視聴は可能です。ちなみにカットありでテレビ放送されたこともあります。

1995年発売の現ソフト版は、再公開版をビデオ化する際に子役(ピノキオとランピー)の声を再録したものです。なお、1993年の金曜ロードショーでは再公開版が放送されました。最近でもBSプレミアムやDlifeの放送時に「ピノキオ:初沢亜利」と表記されることがありますが、実際に使用されているのは現ソフト版です。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ファンタジア(1940年)

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ミッキー 備考
ビデオ版 Walt Disney ※旧DVD・ビデオに収録
Blu-ray 青柳隆志 Blu-ray・新DVDに収録

「ファンタジア」はいわゆる旧吹替版が存在しませんが、旧DVD版とBlu-ray版で内容自体が異なるという珍しい作品でもあります。というのも、「ファンタジア」はアメリカでの再公開の際、7回もマイナーチェンジが行われており、作品として8パターンも存在しているのが原因です。

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ファンタジア(VHS・旧DVD版)

ビデオ・旧DVDには1990年の第7版が収録されています。これは1940年当時の初版をできるだけ再現したものですが、ディームズ・テイラーの解説がナレーション処理にされています。吹替に関してはナレーションのみ(矢島正明)行われており、ミッキーと指揮者の掛け合いは英語のままです。

新DVD・Blu-rayに収録されているのは2000年の第8版です。この版ではナレーションがディームズ・テイラーの解説に戻されており、吹替が新録されています。その際、ミッキーと指揮者の掛け合いも吹き替えられています。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ダンボ(1941年)

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ティモシー 備考
1954年初公開版 坊屋三郎 ※1967年・1974年再映
1978年TBS版 井上順 ※TBS・NHKで放映
1983年再公開版 三田松五郎
ソフト版 牛山茂 Blu-ray・DVD・ビデオに収録

初公開版は3度公開されているものの、未ソフト化なので絶滅しているようで、現状視聴はほぼ不可能です。

1983年再公開版は過去にWOWOWで放送歴があるので、録画さえしていれば視聴は可能です。また、一部ですが「シング・アロング・ソング」に「もしゾウが空を飛べたら」が収録されており、この音源が使用されています。

TV版はかつてTBSやNHKで放送されたもので、こちらも貴重な音源となっています。こちらももちろん録画さえしていれば視聴は可能です。

WOWOWNHKともに、近年放送される際は現行のソフト版が使われています。市販のビデオは(パブリックドメインを除き)すべて現行の新版と同一のものです。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

バンビ(1942年)

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バンビ フクロウさん 備考
1957年初公開版 田中明 春風亭柳橋
新版 依田有滋 熊倉一雄 Blu-ray・DVD・ビデオに収録

初公開版は絶滅済ですが、2007年12月4日放送の「開運!なんでも鑑定団」で当時とんすけ役を務めた滝勝彦さんがセル画を持参して出演した際、音源の一部が放送されたようです。

市販のビデオは(パブリックドメインを除き)すべて現行の新版です。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ラテン・アメリカの旅(1942年)

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1957年に日本で劇場公開されていますが、その際の吹替は確認されていません。

2006年のディズニー・チャンネル放映時に現メンバーによる吹替が制作されています。こちらは2019年6月からディズニーデラックスでいつでも視聴可能となりました。(ドナルド:山寺宏一グーフィー:島香裕)

三人の騎士(1944年)

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ドナルド ホセ 備考
旧版 関時男 金尾哲夫 ※旧ビデオに収録
新版 山寺宏一 中尾隆聖 ※DVD・新ビデオに収録

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三人の騎士(旧版)

旧版はバンダイのビデオを入手すれば視聴可能です。

メイク・マイン・ミュージック(1946年)

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メイク・マイン・ミュージック(旧版)
旧版(バンダイ)の吹替が存在しますが、新版の吹替は存在しません。日本で最も視聴困難な作品となっています。

南部の唄(1946年)

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リーマス ウサギどん 備考
旧版 久米明 江原正士 ※旧ビデオに収録
新版 今西正男 龍田直樹 ※新ビデオに収録

長編アニメーションとしては番外編というべき作品ですが一応紹介。

旧版(バンダイ)、新版(ブエナ・ビスタ)ともに入手困難ですが市販のビデオに吹替が収録されています。

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南部の歌(旧版)

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南部の唄(新版)

東京ディズニーランドの「スプラッシュ・マウンテン」では旧版、「Kinect: ディズニーランド・アドベンチャーズ」では新版(一部異なる)に準拠したキャストとなっています。

しかし、ディズニーの方針でDVD・Blu-rayは販売されておらず、今後見られる機会もほぼ無いでしょう。

ファン・アンド・ファンシー・フリー(1947年)

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ジミニー ミッキー バーゲン 備考
1981年TBS版 熊倉一雄 太田淑子 羽佐間道夫
旧版 内田稔 後藤真寿美 久米明 ビデオに収録
新版 肝付兼太 青柳隆志 大木民夫 WOWOW

TBSで「こぐま物語」の邦題で放送されました。激レア音源なのですが、2019年11月から約一ヶ月間なぜかディズニーデラックスで配信されていました。現在では新版の音源に差し替えられているので、今後の視聴は不可能でしょう。

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子ぐま物語(旧版)

旧版はバンダイでのビデオがあります。入手困難ですが、購入すれば視聴可能です。

新版はWOWOW用に吹き替えられたものです(のちにディズニー・チャンネルで放送)。ソフト発売はされていませんが、ディズニーデラックスでいつでも見られるようになりました。

メロディ・タイム(1948年)

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メロディー・タイム(旧版)
旧録版のビデオがかつてバンダイから発売されていました。その際は歌のほとんどが英語音声+日本語字幕でした。

2004年にはディズニー・チャンネル版が新録されました。このバージョンは逆に「丘の上の1本の木」以外は全曲日本語で歌われています。期間限定で発売されたDVD10作品セットに収録されており、それが唯一の入手法法でしたが、2019年6月からはディズニーデラックスでいつでも見られるようになりました。

イカボードとトード氏(1949年)

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この作品は前半の「トード氏」、後半の「イカボード」のパートに分かれているのでそれぞれ見ていきましょう。

イカボード」の部分は旧版(ナレーション:江原正士)・新版(ナレーション:水野賢司)ともにビデオ用に製作されました。後にディズニー・チャンネルで「イカボードとトード氏」として全編フル放送する際に、「イカボード」は新版の音源を使用しましたが、「トード氏」には吹替が無かったため、ディズニー・チャンネル用に新たに製作された(トード氏:内田直哉)、ということになります。このディズニー・チャンネルで放送されたフルバージョンは、2019年11月からディズニーデラックスでいつでも見られるようになりました。

なお、それ以前に「トード氏」のある一曲は「シング・アロング・ソング」に収録されていますが、この吹替はこのために作られた特別なものです(声優不明)。

シンデレラ(1950年)

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シンデレラ 継母 備考
1961年初公開版 富沢志満 北林谷栄
1992年再公開版 鈴木より子 寺島信子 Blu-ray・DVD・ビデオに収録

こちらも初公開版はソフト化されていません。絶滅済です。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ふしぎの国のアリス(1951年)

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アリス ハートの女王 備考
1973年初公開版
1979年TBS放映版 キャロライン洋子 ペギー葉山
1987年旧版 土井美加 小沢寿美恵 ※旧ビデオに収録
1990年新版 土井美加 小沢寿美恵 ※旧DVD・新ビデオに収録
2005年最新版 土井美加 小沢寿美恵 Blu-ray・新DVDに収録

1973年公開時には日本語吹替版が制作されました。詳細は不明ですが、ネット上の証言によるとチェシャ猫:山田康雄だったとか…?

1979年TBS放映時にも吹替が新録されました。1987年に一度再放送がされています。

1984年のビデオ発売時に吹替が新録されました。1992年のNHK放送では新版が使用されています。旧版→新版→最新版で一部台詞が新録されているようです(旧→新は未確認)。

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

ピーター・パン(1953年)

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ピーター・パン フック船長 備考
1983年TBS版 榊原郁恵 大塚周夫
旧版 後藤真寿美 江原正士 ※旧ビデオに収録
再公開版 岩田光央 大塚周夫 ※新ビデオに収録
DVD版 岩田光央 大塚周夫 Blu-ray・DVDに収録

TBS版は未ソフト化です。ちなみに2003年のTBS放映時には新版が使用されています。

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ピーター・パン(旧版)

旧ビデオ版は入手困難ですが、購入すれば視聴可能です。

現行のソフトには再公開版が収録されています。「アリス」同様、新ビデオ→DVDの過程で部族に関する一部表現が差し替えられています。(酋長→チーフ)

※非公式に発売されている激安DVDには、公式と無関係の吹替が収録されているので注意!

わんわん物語(1955年)

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レディ トランプ 備考
1956年初公開版 宝田薫 小林桂樹
1989年再公開版 藤田淑子 中尾隆聖 Blu-ray・DVD・ビデオに収録

初公開版はソフト化されていませんが、音源は残っているようです。ビデオには再公開版の音源が収録されています。

眠れる森の美女(1959年)

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オーロラ姫 マレフィセント 備考
1960年初公開版 高田敏江 北林谷栄 ※旧ビデオに収録
1995年再公開版 すずきまゆみ 沢田敏子 Blu-ray・DVD・新ビデオに収録

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眠れる森の美女(初公開版)

なんと初公開版がビデオになっています。非常に珍しいケースです。万歳。

101匹わんちゃん(1961年)

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ポンゴ クルエラ 備考
1961年初公開版 田の中勇 財部宏子
1982年再公開版 池水通洋 平井道子 ※DVD・ビデオに収録

初公開版は絶滅済。ビデオは再公開版一択です。

王様の剣(1963年)

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ワート マーリン 備考
1963年初公開版 小幡昭子 トニー谷
旧版=新版 土井美加 内田稔 ※DVD・ビデオに収録

初公開版はビデオ化されていませんが、「シング・アロング・ソング」に収録されている楽曲にはこのバージョンが使用されています。

「ダンボ」同様、旧版の音源は現行のソフトに流用されています。

ジャングル・ブック(1967年)

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モーグリ シア・カーン 備考
1968年初公開版 阿部浩 三波誠也
新版 中崎達也 加藤精三 ※DVD・ビデオに収録

ビデオは新版一択です。

おしゃれキャット(1970年)

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おそらくビデオには初公開版の音源が使われていると思われます。(ビデオで一部シーンのみ新録しているため)

ロビン・フッド(1973年)

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おそらく現行ソフト版(ロビン・フッド:大宮悌二、マリアン:新道乃里子)には1975年初公開時の音源が使われていると思われます。

1. 「おしゃれキャット」とメインキャストの重複が見られるため
2. 音質がよろしくない
3. 平井道子が参加

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ロビン・フッド(旧版)

なお、入手困難な旧ビデオ版(ロビン・フッド江原正士、マリアン:土井美加)もあります。

くまのプーさん 完全保存版(1977年)

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プー 備考
旧版 牛山茂 ※旧ビデオに収録
WOWOW 八代駿
新版 八代駿 Blu-ray・DVD・新ビデオに収録

プーさんの初期作品3本を収録したオムニバスで、日本で初めてフルで見ることができた機会は、1980年代の旧ソフト版でした。

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くまのプーさん(旧版)

1990年代前半にWOWOWで放送された際に新録が行われました。

1997年のビデオ化の際に似たようなメンバーで再録が行われています。

ビアンカの大冒険(1977年)

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ビアンカ」も多少変わっています。1981年初公開版(ビアンカ新道乃里子、バーナード:山田康雄)の後、続編の「ゴールデン・イーグルを救え!」(ビアンカ小原乃梨子、バーナード:山田康雄)が制作されました。この後、2作目はビデオで発売されましたが、1作目のビデオはなぜかなかなか発売されませんでした。ようやく2000年にビデオが発売されましたが、それに伴う新録(ビアンカ小原乃梨子、バーナード:安原義人)によって、初公開版は封印されたのです。

ビアンカ バーナード 備考
1作目 新道乃里子 山田康雄
2作目 小原乃梨子 山田康雄 ※ソフト収録
1作目(新録) 小原乃梨子 安原義人 ※ソフト収録

オリバー ニューヨーク子猫ものがたり(1988年)

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吹替自体は1パターンしかありませんが、「シング・アロング・ソング」にジェニー(里中茶美)が歌う「いつでも一緒」が収録された際、この曲のみなぜか新録となっていました。

同じビデオに収録されている「ホワイ・シュッド・アイ・ウォーリー」は本編(松崎しげる)の流用だったので、音声の権利関係がクリアでなかったのかもしれません。

リトル・マーメイド(1989年)

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1991年初公開版の後、1997年再公開版の際に、ほぼ同一キャストによって歌のみの新録が行われました。歌詞も曲により変更されています。初公開版はビデオ・サントラともに発売されているため、知名度は高く、人気もあるようです。

アラジン(1992年) / ジャファーの逆襲(1994年)

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アラジン ジーニー 備考
旧版 羽賀研二 山寺宏一 ※旧DVD・ビデオに収録
新版 三木眞一郎 山寺宏一 Blu-ray・新DVDに収録

2008年のスペシャル・エディション再販時に、とある事情でアラジンの声のみ差し替えられました。その際は「日本公開15周年記念!」という名目でした。

美女と野獣(1991年) / ライオン・キング(1994年)

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これら2作品はIMAX用の再公開時に一部のシーンが追加されていますが、ほぼ本編同様のキャストで補完されています。(シンバのみ代役)

アナと雪の女王(2013年)

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アナ エルサ オラフ 備考
劇場公開版 神田沙也加 松たか子 ピエール瀧 ※旧ソフトに収録
新録版 神田沙也加 松たか子 武内駿輔 ※新ソフトに収録

こちらも「アラジン」同様、諸事情によりオラフの声のみ差し替えが行われました。アラジンは2作のみでしたが、こちらは長編のほかにもオラフが喋る全作品で差し替えが行われました。

2019年3月に旧ソフトはすべて出荷停止し、6月にディズニーデラックスにて新録版が初お披露目されました。新録版の初ソフト化は9月発売の『塔の上のラプンツェル』『モアナと伝説の海』とのセットで、単品発売は11月でした。

おわりに

以上、長編アニメにおける吹替のガイドを駆け足でお届けしました。同じ作品でも吹替が違えば思い入れも変わってくるもの。この機会に懐かしの吹替版を思い出してみてはいかがでしょうか?

※この記事は2012年12月26日に『ディズニー データベース』本館に投稿した記事を再構成したものです。

【書籍】『ディズニーアニメーション背景美術集』掲載作品紹介ガイド

今回は新着の書籍をご紹介します。

www.kinokuniya.co.jp


『ディズニーアニメーション背景美術集』が2019年11月28日に発売となりました。91年間のスタジオのアーカイブの中から、アニメーション映画を作る上で最も難しいと言われる背景画とレイアウトを特集した一冊となっています。


本書は、アメリカで発売された『Walt Disney Animation Studios: The Archive Series』シリーズの『Story』(2008年発売)、『Animation』(2009年発売)、『Design』(2010年発売)に続いて2011年に発売された『Layout & Background』の翻訳版となっています。アメリカ版ではミッキーのデビューした1928年から当時公開を控えていた『くまのプーさん』(2011年)までの作品が対象となっていましたが、今回日本で発売されたバージョンでは掲載アート数を300から400に拡大し、対象作品も最新作『アナと雪の女王2』(2019年)にまで拡大しての刊行となります。


ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオCOOのジェニファー・リー(『アナと雪の女王』でスタジオ初の長編アニメ女性監督を担当)の序文と、アニメーション・リサーチ・ライブラリーの謝辞を除けば文章はほとんど無く、背景美術の掲載に特化した一冊となっています。


そして本書では長編映画だけでなく、一部マイナー作品も含まれています。本稿では本書を手に取った人の中で、あまりディズニーに明るくない方へ向けて掲載作品に関して簡単に補足していきたいと思います。今回もいつものごとく、1億3000万人の誰か一人にでも響くことを祈って…!

掲載作品

長編アニメーション映画

以下の作品はウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが制作した長編アニメーション映画です。世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』(1937年)から『アナと雪の女王2』(2019年)まで58作品あり、本書にはそのうち48作品が掲載されています。

※1…公式表記は『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』。

『ディズニー データベース』では以下のリンクをご参照ください。


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ちなみに、『ロジャー・ラビット』は実写とアニメーションを合成した長編映画となっておりまして、ディズニーの子会社であるタッチストーン・ピクチャーズという大人向け実写映画レーベルから公開されました。


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ロジャー・ラビットはハリウッドの映画スターという設定で、実際に『ロジャー・ラビット』の公開後に3作品の短編アニメが制作されました。本書に掲載されている『おなかが大変!』はその中の一作品となります。

短編アニメーション映画

ミッキーマウス・シリーズ

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以下の作品はミッキーマウスが主演した短編アニメーション映画です。

  • ミッキーの愛犬(1939年)
  • ミッキーのアナウンサー(1931年)
  • ミッキーのオペラ見物(※2)(1929年)
  • ミッキーの騎士道(1933年)
  • ミッキーの巨人退治(1938年)
  • ミッキーのグランドオペラ(1936年)
  • ミッキーの造船技師(1938年)
  • ミッキーの大演奏会(1935年)
  • ミッキーのドキドキ汽車旅行(1940年)
  • プルートの大暴れ(1934年)
  • プルートの化け猫裁判(1935年)

※2…公式表記は『ミッキーのオペラ見学』。

ドナルドダック・シリーズ

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以下の作品はドナルドダックが主演した短編アニメーション映画です。

  • ドナルドのいたずらばち(1950年)
  • ドナルドの恐怖の一夜(1945年)
  • ドナルドの災難~仕事篇(1959年)
  • ドナルドの博物館見学(1937年)
  • リスのいたずら合戦(1950年)
  • リスの冬支度(1949年)
グーフィー・シリーズ

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以下の作品はグーフィーが主演した短編アニメーション映画です。

※3…公式表記は『グーフィーホームシアター』。

プルート・シリーズ

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以下の作品はプルートが主演した短編アニメーション映画です。

  • アーミー・マスコット(1942年)
  • プルートの仲直り(1944年)
  • プルートの南米旅行(1943年)
  • プルートとモグラ(1950年)
シリー・シンフォニー

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ミッキーマウスのアニメシリーズとともにスタートしたシリーズです。こちらはミッキーが登場せず、音楽とアニメーションの融合に特化したシリーズとなっています。アニメーター達スタッフの教育の場や、新たな表現技法の研究の場として使われ、アカデミー賞も多く受賞しています。

  • 秋(1930年)
  • 海の王ネプチューン(1932年)
  • 黄金の王様(1935年)
  • オオカミは笑う(1936年)
  • 踊るニワトリ(1935年)
  • かしこいメンドリ(1934年)
  • キツネ狩り(1931年)
  • 小ぞうのエルマー(※4)(1936年)
  • 昆虫救助隊(1932年)
  • 童話行進曲(1931年)
  • 春の女神(1934年)
  • 春(1929年)
  • 真夜中のおもちゃ屋(1930年)
  • ミュージック・ランド(※5)(1935年)
  • モスの消防隊(1938年)

※4…公式表記は『子ぞうのエルマー』。
※5…公式表記は『音楽の国』。

しあわせウサギのオズワルド

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オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット


1927年、ミッキーマウスが誕生する一年前にウォルト・ディズニーが制作したウサギのオズワルドを主人公にしたアニメシリーズです。オズワルドは1928年に訳あってディズニーを離れることになりますが、2006年に里帰りを果たし、今ではディズニーのテーマパークにも登場しています。

現在は『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット』というタイトルで知られていますが、かつては『しあわせウサギのオズワルド』というタイトルが一般的でした。

その他のアニメーション映画

『シリー・シンフォニー』終了後、音楽に特化するというルールに縛られず、劇場で公開されたアニメーション映画です。

  • 青い自動車(1952年)
  • ウェイン&ラニー クリスマスを守れ!(2009年)
  • クマとみつばち(1955年)
  • 小さな家(1952年)
  • ブタはブタ(1954年)
  • ぼうやはカウボーイ(※6)(1956年)
  • ポール・バニヤン巨人伝説(1958年)

※6…公式表記は『坊やはカウボーイ』。

その他のマイナー作品6選

ここからは、本書で扱われている作品の中で最もマイナーな6作品について。

ザ・グーフィー・サクセス・ストーリー

アメリカで毎週放送されていた1時間番組『ディズニーランド』で、1955年12月7日に放送されたエピソード(シーズン2第12回)です。

グーフィーがひょんなことからディズニーにスカウトされ、大スターに登りつめるまでを彼の主演作品を交えて紹介します。彼の知られざる真実が明らかになり、グーフィーファンにも注目度の高い作品です。

一部の国では劇場公開もされたほか、日本では『グーフィー・ムービー ホリデーは最高!!』のDVDの特典映像に『グーフィーがスターになるまで』というタイトルで収録されています。

ディフェンス・アゲインスト・インベイジョン

1943年に米大陸間問題調整局の依頼で制作された作品です。

予防接種をすることで、人体はどのように細菌に対抗することができるかを紹介する教育用のアニメーション映像です。細菌に侵される人体を、攻撃を受ける都市に例えて表現しています。

ハウ・トゥ・リラックス

1957年11月27日、『ディズニーランド』で放送されたエピソード(シーズン4第11回)です。ホスト役のグーフィーが働きすぎの現代人にリラックスするための方法を提案します。この番組の中ではグーフィーの出演作品が紹介されます。

マジック・ハイウェイUSA

1958年5月14日、『ディズニーランド』で放送されたエピソード(シーズン4第26回)です。当時の視点から、アメリカ社会における未来の高速道路や自動車を描き出します。

マース・アンド・ビヨンド

1957年12月4日に放送された『ディズニーランド』のエピソード(シーズン4第12回)です。ウォルト・ディズニーがホストを務め、人類が火星で発見する新たなものについての予測とユーモラスな見解を紹介します。技術アドバイサーとしてウェルナー・フォン・ブラウン博士など本物の科学者も登場します。

アメリカでは2004年に発売されたDVD『Walt Disney Treasures: Tomorrow Land』に収録されていますが、日本では未発売です。

ミュージック・フォー・エブリバディ

『ディズニーランド』の後継番組『Walt Disney's Wonderful World of Color』1966年1月30日放送(シーズン12第16回)のエピソードです。

ホスト役のルードヴィッヒ・フォン・ドレイクが音楽を主題にした映画の映像を用いながら、人々の生活における音楽の重要性を紹介します。『メロディ・タイム』や『メイク・マイン・ミュージック』のほか、初回放映時には『ファンタジア』でボツとなった『月の光』のシーンも使われていたようです(『ファンタジア』のDVDに特典として収録)。

おわりに

ディズニーのアニメ作品の背景画に特化した資料集として、眺めるだけでも楽しめる資料的に価値の高い一作となっていると思います。長編映画から短編映画まで幅広く掲載されており、ほぼ年代順に並んでいるため作品の変遷を時代に合わせて見ることも出来ます。

なお、今回この本に掲載されているマイナー作品を検証した結果、TV番組や教育映像用に制作されたアニメーション部分の背景画であることがわかりました。カリフォルニア州バーバンクにあるディズニーのアニメスタジオではこうした作品の資料もきちんと保管されており、新作を作るスタッフが勉強のために資料を閲覧することがあります。90年以上の長い歴史を温故知新の精神で活かしていく、そんなディズニーの強みを感じられるシリーズと言えるかもしれません。

『アナと雪の女王』アナの誕生日で世界は回る

今年はうるう年ではありません。では、2月29日生まれの人はいつ歳を取るのでしょうか?


日本の法律では、人が歳を取るのは誕生日の0時ではなく、厳密には誕生日前日の24時だそうです。つまり、2019年の場合は2月29日生まれの人と3月1日生まれの人は同じタイミング(2月28日の24時)で歳を重ねるというわけですね。


このようにその年に合わせて柔軟に誕生日を適用させる器用な能力を持つ2月29日生まれ。その一方で、とある王国の王女は自分の誕生日を中心に世界を回しているのだとか。


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というわけで、いよいよ『アナと雪の女王2』が日米同時公開されました!金曜ロードショーでも前作が放送され、世間も大いに盛り上がっていますね。放送中のトレンドもまさに『アナ雪』祭りで、『レリゴー』『オラフ』『エルサ』などのほかに、『ピエール』という作品に登場しない謎のキャラクターの名前も挙がっていました。


なお、『ディズニー データベース』では新作の公開に合わせて『アナ雪』強化月間を実施中です。


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さて、今回は日本ではあまり話題にならなかった『アナ雪』シリーズの時系列に関するお話です。


目次

アナと雪の女王

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まず、シリーズ第1作『アナと雪の女王』で描かれる物語は約14年間。幼き日の姉妹の初登場シーンを穴雪元年としてカウントしていきます。


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穴雪元年:アナ(5歳)、被弾。


エルサは8歳です。両者の年齢はノベライズで明記されることがありますが、映画本編では語られていないのでバージョンによって違いがあるかも?


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穴雪5年:アナ(9歳)、ジャンヌ・ダルクを応援


『雪だるまつくろう』の歌の途中で4年が過ぎ、2番で登場するアナの歌唱シーンです。エルサは12歳。


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穴雪11年:両親が遭難


突然の悲劇。


ところで、毎回テレビで放映される時期になると『アナ雪に一瞬ラプンツェルが出てくるよ!』という小ネタが拡散されるのがお決まりですが、同時に『ターザンは遭難したアレンデール国王夫妻が生んだ、エルサとアナの弟!』というネタも流れてきます。これはターザンとアナ雪の両方を監督したクリス・バックが「僕の頭の中ではターザンはエルサとアナの弟なんだよ」と発言したものがソースなのでディズニーの公式設定としてはグレーです。もちろん信じるのは自由ですが、拡散の際には『ターザンとアナ雪の監督の脳内では、ターザンはエルサとアナの弟らしいよ!』と補足したほうが無難かと思われます。


それから三年後の穴雪14年、戴冠式からの行程は3泊4日となっています。それぞれの日の主なイベントは戴冠式、氷の城完成、アナが氷の城到着、アレンデール城開門となっております。

アナと雪の女王 エルサのサプライズ

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アナと雪の女王』(2013年)の後、後日談となる短編映画『アナと雪の女王 エルサのサプライズ』(2015年)が公開されました。物語の舞台は『アナ雪』で姉妹がひとつになった後、初めてのアナの誕生日。今までの空白の誕生日を埋めようと、とにかくエルサが張り切ります。ところで、アナの誕生日はいつかご存知ですか?



2014年9月、監督のジェニファー・リーはファンからの問いに「アナは夏至、エルサは冬至だよ~」とコメント。なるほど対になってるわけだ!


じゃあ夏至っていつよとなるわけですが、夏至は基本的には6月21日か22日。定め方がいくつかあり、国によっても時差で微妙に異なります。これを期に夏至に興味を持ったらぜひ夏至を極めてみてください。以上、アナ雪に学ぶ夏至講座でした。完。


感覚としてはアメリカのファンは6月21日、日本のファンは22日に祝っている傾向がある気がしますが、当然人それぞれ個人差もあります。なお、テーマパークでは映画のスクリーンデビュー日を誕生日と扱うことも多いので、映画が公開された11月が誕生日だという説を推す人もいますが、登場人物全員の誕生日が同じになってしまうので今回は不問としましょう。


ちなみに『エルサのサプライズ』では、物語の西暦が明らかになっています。


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左上にMDCCCXL(1840年)との記載が。


『エルサのサプライズ』が1840年6月ということは、『アナと雪の女王』はその前の7月、つまり1839年7月ということのようです。あー、スッキリした!


でも今回はここからが本題なんです。

アナと雪の女王 家族の思い出

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シリーズ第3作となる中編映画『アナと雪の女王 家族の思い出』では、『アナ雪』の後の初めてのクリスマスが描かれます。


『アナ雪』が1839年7月だから、『家族の思い出』は1839年12月になりますね。そういえば、2作目の『エルサのサプライズ』は1840年6月でしたね。そう、実は2作目と3作目は順序が逆だったのです!


…というのが、アメリカのファンの一般的な考察。ネットで検索すればこの説はたくさん出てきます。しかし、彼らは大きな見落としをしているのです。


それは、アナが6月生まれではないということ。


…………えーっと、何を言ってるか意味がわからない方はこちらをご覧ください。


www.youtube.com



これは2作目『エルサのサプライズ』の告知映像で監督コンビがトークしている動画です。その中でクリス・バックが「本作は前作のA Few Months After」と話しています。ここでハッキリさせておきたいことはひとつ。


果たして11ヶ月後のことをA Few Months Afterと表現するのだろうか?


監督コンビの先輩クリスのイメージではアナは8〜9月生まれだったのでしょう。先ほど夏至発言をしていたジェニファーも特に反論していません。もしかしたら舞台裏でクリス大先輩に「アナは9月生まれだ!分かったらさっさとタピオカ買ってこい!!事務所総出で(略)」などと恫喝されている可能性もありますが、ここは単純に設定変更されたと考えるのが自然でしょう。


すると、西暦の起点となる『エルサのサプライズ』が1840年夏、『アナ雪』『家族の思い出』がそれぞれ1840年7月と12月となるようです。しかし、現在『アナと雪の女王』の時代設定を英語のサイトで調べると、ほぼJuly, 1839しか出てきません。監督の主張する1840年説の市民権は限りなく低いです。


この時系列問題、個人的にどちらの説を応援したいとかはないのですがここまで1839年が推されているということは、1839年7月と明確に記された資料(パンフレットや小説など)があるのかもしれませんね。もしよろしければその辺りに詳しい方の情報、お待ちしております!


ちなみに『アナ雪2』は前作の3年後だそうです。

おわりに

『アナ雪』で7月だと分かる台詞は2箇所あります。一つ目は1日目の国民の台詞、二つ目は2日目のオーケンの台詞です。


さらに熱心なファンは、『とびら開けて』のワンシーンに登場する満月に着目し、1839年7月にノルウェーから見えた満月を調べて、劇中の時間は7月26日〜29日だと主張するんだとか。ちなみに1840年説だと満月は7月15日〜18日に変わってしまいます。アナの誕生日によって振り回されるのは年だけでなく日のほうもなんですね。


さて、お分かりいただけたでしょうか。アレンデールはアナの誕生日を基準に回っているということを。


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『Disney+』超初級入門~朝礼のスピーチで話すために~

さて、11月12日にいよいよ『Disney+』がサービスを開始しました。


日本でも話題を集めつつ当日を迎えたわけですが、他の国に比べるとやはり盛り上がりに欠ける部分があったのではないでしょうか。


というわけで、今回はその波に100%乗り遅れた方々に贈る『Disney+』超初級入門となっております。


この記事は「情報収集をせずに気が付いたら『Disney+』が始まっていた」または「Disney+と吉野家の違いがイマイチよくわからない…」といった方を対象としています。サービス開始前からガッチリ調べていたり、VPNと日夜格闘している方は①辺りで混乱する恐れがありますのでご注意ください。


では早速、明日の朝礼のスピーチで使える10のポイントに沿って紹介していくのでお好きなところをマスターしてくださいませ。


目次

①『Disney+』は牛丼屋ではない。

まずは、『Disney+』と吉野家の違いがイマイチよくわからない方々の疑問を解消していきます。

吉野家は牛丼屋のチェーンの名前です。一方、『Disney+』はディズニーの映像コンテンツを提供するサービスとなっています。あまり似ていません。

②『Disney+』は動画配信サービスである。

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あるのは動画。無いのは生姜。

『Disney+』は、ディズニー社の所有する動画コンテンツを月額料金で見放題という動画配信サービスです。

ディズニーの所有する膨大なコンテンツが対象となっており、D23の事前発表記事によると、最初から対応しているのは映画500本とTVエピソード7,500本だそうです。

d23.com

しかし、事前発表のなかった『The Mickey Mouse Club』(ディズニー版『天才てれびくん』的な番組。1955年放送。)がしれっと配信されているなど、発表済のリストがすべて網羅している訳でもないことが判明してきています。思わぬタイトルが隠れているかも…?

このサービスは今年の夏にアナハイムで行われたD23 Expoをはじめ宣伝が大々的に行われ、サービス開始前の予約者数はアメリカ国内だけで100万人を突破しました。その規模はやはり桁違いであったようで、実際にサービスが始まってみると、サーバー障害などのトラブルも起きていたようです。

③『ディズニーデラックス』とは別サービス。

日本では既に『ディズニーデラックス』というサービスが展開されています。

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日本限定サービス『ディズニーデラックス』

こちらは『Disney+』に先駆けて2019年3月からウォルト・ディズニー・ジャパンNTTドコモの協業で展開しているサービスです。

最初は「コンテンツ数が少ない」「端末にダウンロードできない」「エラーが多発する」といった理由で散々使えない子扱いされていました。当時は『アベンジャーズ エンドゲーム』公開直前に無料お試し期間でほぼ全作予習ができるという点でたくさんのマーベル初心者の踏み台とされたサービスです。その後、無料期間中に解約するも、料金が発生して問い合わせる人多数なのもすっかりおなじみの光景に。

ただしサービスの内容が悪いわけではなく、毎週定期的にコンテンツが追加され、日本語の音声か字幕がしっかり搭載されています。未ソフト化のTVシリーズを視聴したい人にはうってつけのサービスとなっています。

さて、『ディズニーデラックス』ではディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズの4ブランドの作品が視聴できるようになっています。『Disney+』ではさらにナショナルジオグラフィックも加わった5ブランドからも選択できます。さらにカテゴリ分けがどうなってるのか全くわかりませんが、先日ディズニーが買収した20世紀フォックスの作品(『サウンド・オブ・ミュージック』や『ホーム・アローン』など)も視聴可能となっています。

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既存4ブランドにナショジオが仲間入り

ちなみに、『Disney+』では『ディズニーデラックス』の新作(有料)でしか出来なかったダウンロードができます。

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こんなにあっさりDLできるとは

④『Disney+』はアメリカから世界規模で展開。

2019年11月12日、アメリカ、カナダ、オランダの3ヶ国でサービスが開始しました。

アメリカでの料金はなんと月額6.99ドルという格安設定。年額66.99ドルというさらにお得な料金設定もあります。他にもディズニー傘下にあるHuluやESPN+とセットで月額12.99ドルというパックも用意されています。

翌週の11月19日にはオーストラリア、ニュージーランドプエルトリコで開始予定。2020年3月31日にはイギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、アイルランドでのサービス開始が予定されています。

⑤専用コンテンツも大量投入予定。

『ディズニーデラックス』でも日本の芸能人を起用したバラエティなどのオリジナル番組が用意されていましたが、『Disney+』ではディズニー直々に専用コンテンツがどんどん投入されていきます。

今回のサービス開始に合わせて配信が始まったローンチタイトルは実に12本。シリーズものは順次エピソードが公開されていくようです。その中の一例は以下の通り。


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『The Mandarorian』
スター・ウォーズシリーズの最新ドラマシリーズ。『ジェダイの帰還』の5年後を舞台に、戦闘民族マンダロリアンの戦いを描く全8話のドラマシリーズです。


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『Lady and the Tramp』
同名のアニメ映画『わんわん物語』の実写化作品。近年はアニメ映画の実写化ブームですが、劇場公開ではなく配信限定コンテンツとしてのお披露目は初。レディ達はCGでなく本物の犬が演じます。


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『Forky Asks a Question』
トイ・ストーリー4』でデビューした知りたがりのフォーキーが仲間たちに質問をしまくります。ローンチタイトルの第1話ではハムに「お金って何?」と訊ねます。


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『The Imagineering Story』
ディズニーのテーマパークで空想の世界を現実の形にするプロ集団「イマジニア」達の活躍に迫るドキュメンタリーシリーズ。当時のイマジニアの証言や貴重な映像が視聴できます。

⑥『Disney+』は日本対応未定。

さて、『Disney+』の規模感もわかったところでようやく本題です。


ここまで言っておいてアレですが、このサービスは日本への上陸予定がありません。


『Disney+』の詳細が判明した2019年4月が、3月の『ディズニーデラックス』開始直後であったこともあり、「ディズニーデラックスのせいでDisney+が上陸しないのではないか」と随分と目の敵にされました。というか、今もある種続いているといえば続いています。

その大きな理由は、マーベルやスター・ウォーズの最新シリーズが『Disney+』限定で配信されてしまうため。特に、今後のマーベル映画はこれらの限定シリーズとリンクすることが公言されているため、配信されないとなれば世界から出遅れてしまうファンもいっぱいいるわけです。これは『アベンジャーズ エンドゲーム』が各国で週間1位を総ナメにしている中、唯一『劇場版名探偵コナン 紺青の拳』を1位にしていた日本へのあてつけとしか思えません。(適当)

しかしローンチから2日ほど経っていることもあり、AndroidiOSともに日本からの登録成功報告もちらほら出ております。また、ディズニーの人気が根強い日本ですから、将来的には対応するだろうという前向きな予想も多いようです。その根拠としてはこんな感じ。

(1)日本向けの公式サイトは一応日本語表記。
一部とはいえ日本語表記のサイトが用意されているのですから、全く視野にないはずはありません。

(2)専用コンテンツの日本語版が既に制作されている。
前述の『The Mandarorian』ですが、なんと日本語吹替版が既に視聴可能となっています。DVDなど別の媒体で発売されるかもしれませんが、だとしたら日本上陸よりも遥かに前のこのタイミングで各国版と同時に収録する必要性もないと言えます。

(3)既存サービスと統合のケースもある
イギリスでは2015年から『DisneyLife』という独自の配信サービスを展開していますが、将来的に『Disney+』との統合を発表しています。日本の『ディズニーデラックス』もインターフェースはよく似ていますから、『Disney+』との統合を視野に入れて開始した可能性は十分に有り得ると言えるでしょう。

ほか、2020年3月のヨーロッパと同時にアジア・パシフィックも上陸する説が出ているので、あわよくばそこに含まれているのではないかと期待する人もいます。

⑦日本語はほぼ未搭載。

『The Mandarorian』は新作ならではのケースで、その他の作品には日本語音声も字幕もまだ搭載されていないと見て良さそうです。(あったら教えてください)

対応言語も作品によってバラバラで、現在どの作品も基本的には英語とスペイン語は搭載されているようです。ものによってはフランス語やポルトガル語なども対応しているといった感じで、飛行機の映画ラインナップを見ているような感じが近いかもしれません。

近日配信予定の『イカボードとトード氏』や『リラクタント・ドラゴン』、先日希少音源が発掘された『ファン・アンド・ファンシー・フリー』などは検証する以前の問題であったようです。

シンプソンズがほぼ全話配信される。

前述のとおり、20世紀フォックスの作品がラインナップされていますが、中でも目玉なのは初日から『ザ・シンプソンズ』の全30シーズンが配信されていること。マイケル・ジャクソンの回など一部対象外の作品もありますが、TV再放送などの他のメディアでも既にカットされることもある回のようで、ファンからしたら納得のいく状況らしいです。

そんなシンプソンズで初日にネットニュースになったのが、4:3のオリジナルサイズで制作された旧エピソードを16:9のレターボックスサイズにトリミングしていること。横長の画面に合わせるために縦横比を無理やり変更しているため、画面の上下部分がカットされ、いくつかのギャグが見切れてしまっているようです。かつてTV再放送の際にも同じ現象が起きてクレームが寄せられ、4:3サイズに戻すことで収まったそうですが、今回はその16:9の素材を流用してしまったのかもしれません。ディズニーは視聴者の声をもとに対応を検討するとコメントしています。



スター・ウォーズアベンジャーズがまた改変される。

スター・ウォーズ』旧三部作の4Kマスターがなんと配信で初解禁です。

中でも話題になったのは『新たなる希望』の例のハン・ソロとグリードの撃ち合いシーンにまた変更が加わったとのこと。これはディズニーのルーカスフィルム買収前にルーカス自ら編集した変更点になるらしく、今回のタイミングが初出になったようです。また、旧三部作のFOXファンファーレが復活したとの報告も出ています。

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『フォースの覚醒』でおなじみファンファーレ問題

アベンジャーズ エンドゲーム』では、『新映像追加版』にも無かったトニー・スターク父娘のシーン(劇場公開時に撮影したがカットになった)が初解禁となっています。

disneydb23.hatenablog.com

先日、こちらの記事で「映画のバージョンが多いのは嬉しいこと。」と書きましたが、スター・ウォーズファンの前でこれを言っては「ノオオオオオ!」と言いながら奈落の底に投げ飛ばされてしまうかもしれないので迂闊な発言は命取りです。というわけで、今回のスター・ウォーズアベンジャーズがそれぞれどのような改変となったか、是非その目で確かめてください。(機会はあるのか?!)

⑩ディズニー作品は既存マスターを使用。

映画の世界には長い歴史があり、その時代の世相を反映した表現が登場することがあります。ディズニーも例外ではなく、『スプラッシュ・マウンテン』の原作として知られる『南部の唄』は当時の白人と黒人の関係が適切に描かれていないとして人種団体から批判を受け、今なお自主規制の対象としてアメリカでは一度もビデオ化されたことがありません。そのため『南部の唄』は今回も配信されていません。

しかし今年の4月、『ダンボ』に登場するカラス達が黒人を揶揄しているシーンであることから『Disney+』では一部カットの対象となると報道されました。これは最近のディズニーらしい対応であり、同時期に公開された実写版『ダンボ』でもカラスにあたるキャラクターは登場しませんでした。

boardwalktimes.net

今回カラスのシーンを短縮してどのような編集になるのか想像も付きませんでしたが、蓋を開けてみると『ダンボ』は見慣れたオリジナル版そのままの配信(※本編終了後に注意書きあり)となりました。『ファンタジア』はBlu-ray同様、トリミング版の収録となります。

なお、『わんわん物語』に登場するシャム猫たちもアジア人のステレオタイプをもとに描かれていることから今回の実写版では対応がなされています。将来的に『ダンボ』のシーンカットが実現するとなれば、『わんわん物語』の彼女たちや『ジャングル・ブック』のキング・ルイも無事では済まされないのかもしれません。

また、最新マスターということで『トイ・ストーリー2』は今年の夏に4Kマスター向けに編集されたバージョンの収録となっています。NG集でプロスペクターがバービー人形たちに「次回作に出してあげるからね」と密会をするシーンです。1999年当時の製作者側の意図としては「映画界だからこんな光景もあるでしょ?」みたいなあるあるジョークの一環だったのかもしれませんが、時代の変遷に合わせて自主規制の対象となったようです。同作の監督がセクハラで退社したことを考えればもはや笑えませんね。

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ちなみに『ディズニーデラックス』でもカット済

ちなみに、ディズニー映画に関して『ディズニーデラックス』では2018年11月公開の『シュガー・ラッシュ:オンライン』まで定額配信対象となっており、『Disney+』では2019年4月公開の『アベンジャーズ エンドゲーム』までが対象となっています。ここも本国ならではのスピード感と言えるでしょう。

おわりに

以上が、『Disney+』事情に完全に出遅れた方々に最初に押さえていただきたい10ポイントでした!日本語音声・字幕についてはほぼ未対応ということで、最新のコンテンツや日本未上陸の映画や番組を英語音声・字幕で楽しみたい方にはメリットがありますが、その他の方々にはおとなしく日本版を待つのが得策かもしれません。

それにまだまだラインナップや仕様に関しては明らかになっていない所も多いので、ここから興味を持った部分を調べるきっかけにしていただけたらなぁと思います。

ただ、このコンテンツ大量消費の時代、早くて安くて美味しいものを楽しめるという点では牛丼屋と通ずるところがあるんじゃないかと思ってみたりなんかしちゃったりして。(最後まで適当)

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』完全バージョン解説ガイド

先週の金曜日。

ディズニーデラックスでマイナーな作品『ファン・アンド・ファンシー・フリー』が配信されまして、そちらが38年前にTBSで地上波放映された貴重な吹替版であることが判明しました発覚の経緯は、バージョン特定をされた方が直々にまとめてくださいましたので、そちらをご参照ください。


togetter.com


というわけで、当サイト開設10周年を記念して作ったTwitterアカウントがたまたま功を奏したわけでした。めでたしめでたし。



…で終わってもいいのですがここはちょっと深堀りしたい。

今回の超レア音源の発掘はネット上でごく一部の反響を呼びました。もちろんTBS版の発覚に喜ぶ声もありますが、ミッキーがいつもの声と違うぞと公式に問い合わせた人もいたとかいないとか。中でも一番気になったのは、「昔見たやつと何か違う?」とか「あれ、もしかしてこの映画初見?」といったもの。

実はこういった意見が出るのはごもっともでありまして、この映画のバリエーションというもの、日本人がお目にかからないであろうものも含めて結構パターンがあります。それに伴い日本語吹替版もいくつかに分岐しているのです。

Wikipediaではフル版と単品版のキャストを一つの表にまとめたいらしく、これが誤解のもとになっているのではないかと思いました。というわけで、こういうマイナーな視点こそウチでやらねば、ということで『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の関連作品のバージョンをすべて振り返っていきますよ!

それでは1億3000万人の一人にでも、誰かの心に響くことを祈って…!

そもそもどんな映画?

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』は1947年に公開された映画で、『ボンゴ』と『ミッキーと豆の木』の2作品を繋げて長編映画にした作品です。

1942年から1949年までの間、戦中戦後のお金的にも期間的にもカッツカツだったこの時代であったため、短編を繋げて長編にするオムニバスという形式の作品が6本作られました。本作はその中のひとつです。

当初は『ボンゴ』も『ミッキーと豆の木』も長編映画として作りたかったのですが、長編映画を作る余裕がなかったため、オムニバスとして制作されました。

この2話に関連性はありませんが、幕間に『ピノキオ』のジミニー・クリケットが案内役として登場します。『世にも奇妙な物語』のタモさんをイメージしていただければと思います。しかし、ジミニーは語り手というわけではなく聞き手という立場で登場します。『ボンゴ』は歌手のダイナ・ショアが、『ミッキーと豆の木』は腹話術師のエドガー・バーゲンが語りを務めます。

吹替版

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』をフルで楽しむことができる吹替版は3種類あります。

TBS版 1981年4月3日放送
旧VHS版 1986年6月5日発売
WOWOW 1995年11月3日放送


WOWOW版がおなじみのキャスト陣による吹替であったため、ディズニーデラックスによる公式の配信でもこの版が使われると思われていました。しかし、蓋を開けてみると地上波放映時に独自に作られたTBS版が配信されていたのです。


通常、地上波で洋画を放送する際、吹替の音源は米国の映画会社から取り寄せるそうです。もしTV局で新録を行う際、放送終了後にその音源も映画会社が管理するとのこと。今回も同じ仕組みであれば、ディズニーデラックスで配信する際に音源を取り寄せたところ、日本側ではなく、アメリカ本社側がTBS版を送りつけてきた可能性が考えられます。その理由としては、「日本でDVDが発売されていないため、決定版の吹替がどれかわかっていなかったから」だったのではないでしょうか。本社側からすれば「日本語の音源がいくつか手元にあるけどどれが決定版なのよ?」って感じでTBS版を投げてきて、受け取った日本側も「わかりました。これが米ディズニーさんからお借りした音源なんですね!」って感じで配信したのかもしれません。どちらにせよ真相は藪の中です。


何はともあれ、今回TBS版がひょっこり出てきたことで、地上波放映用の素材もディズニーが丁寧に管理している可能性が出てきました。これは、今では見られないような劇場初公開当時の吹替もすべてしっかり管理されており、そして黒歴史ではなく公式の歴史として捉えられている可能性が期待できるということです。今後も封印された吹替がなにかの拍子に日の目を見るかもしれないという点で非常に意義のある出来事でした。あ、ちなみに一昨日投稿した『ディズニー日本語吹替概論』はこの記事のための前座なのでした。


disneydb23.hatenablog.com



さて、閑話休題。『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の吹替版3種はいずれもノーカットです。なので、本作を見たことがあるはずなのに、今回ディズニーデラックスの配信を見て知らないシーンがあったという方は、実は『ファン・アンド・ファンシー・フリー』を見たことがなかったということになります。そういった方々は、恐らく後述の『ボンゴ』単品か『ミッキーと豆の木』単品を見たのだと思われます。

ボンゴ

『ボンゴ』はサーカスから抜け出したクマを主人公としたアニメーションです。

↓あらすじはこちら
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ナレーション
1947年版 ダイナ・ショア
1971年版 ジミニー・クリケット
1992年版 ダイナ・ショア

1971年版

1971年に劇場公開されたバージョンでは、ジミニー・クリケットが案内役とナレーションを兼任しています。初代ジミニー声優のクリフ・エドワーズが最後に担当した作品です。

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『ボンゴ』1971年版を収録

日本ではこちらのVHSに収録されています。(ジミニー・クリケット肝付兼太

歌は謎の女性シンガーが担当していますが、熊が頬ピシャリする歌も肝付さん自ら歌います。

1992年版

アメリカで1992年に発売されたこのバージョンは、1947年版の『ボンゴ』のアニメーション部分のみを収録している、オリジナルに近い編集となっています。ジミニーの案内役のシーンは全カットで、純度100%のボンゴです。

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純度100%の『ボンゴ』を収録

日本では、『とっておきの物語』シリーズの『ピーターとオオカミ』にも併録されています。吹替は『ファン・アンド・ファンシー・フリー』のWOWOW放映時の『ボンゴ』部分の流用となります。(ナレーション/歌:戸田恵子

ミッキーと豆の木

こちらは、ミッキー、ドナルド、グーフィーの3人が『ジャックと豆の木』を演じる作品。『ミッキーのクリスマスキャロル』に登場する巨人のウィリーのデビュー作でもあります。

↓あらすじはこちら
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『ファン・アンド・ファンシー・フリー』(以下、1947年版)では、物語の最後に聞き手のモーティマー(腹話術人形)がウィリーの死を哀しみます。すると話し手のバーゲンさんが「巨人は空想上の生き物だから泣かないで」と励まします。すると、バーゲンさんの家の屋根をウィリーが剥がし、バーゲンさんが失神するというオチで締められます。

『ミッキーと豆の木』の単品バージョンは大きく分けて3種類あります。

ストーリーテラー 聞き手
1947年版 エドガー・バーゲン ルアナ、チャーリー、モーティマー
1955年版 ナレーション -
1963年版 ルードヴィッヒ・フォン・ドレイク ハーマン
1973年版 シャリ・ルイス ラム・チョップ

1955年版

1955年に放送されたTV番組『ディズニーランド』の中で放送されたこのバージョンは、バーゲンさん達の掛け合いをカットし、スターリング・ホロウェイ(プーさんの声でおなじみ)のナレーションで構成されているシンプルなバージョンです。

物語の最後には、番組のホストであるウォルト本人のもとに、巨人のウィリーが現れてウォルトと会話をします。

このバージョンはアメリカで何度も再放送が行われたらしいのですが、ウォルトとウィリーの掛け合いは再放送ではカットされるのが通例のようです。アメリカでは馴染みのあるバージョンなのかもしれません。

日本でも日本テレビ系で1958年10月10日に放送されたんだとか。この番組は吹替版で放送されていたので、吹替版も作られていたと思われます。

1963年版

1963年放送の『Walt Disney's Wonderful World of Color』では、『The Truth About Mother Goose』という回の後半に『ミッキーと豆の木』が流されました。

ホストをルードヴィッヒ・フォン・ドレイク教授が、アシスタントを虫のハーマン・ザ・ブートル・ビートルが担当しました。

1947年版同様、教授がハーマンに物語を聞かせる形式です。最後には聞き手のハーマンがウィリーの死を哀しみます。すると話し手の教授が「巨人は空想上の生き物だから泣かないで」と励まします。すると、教授の家の屋根をウィリーが剥がし、教授が失神するというオチで締められます。どこかで聞いたことのある展開ですね!

このバージョンはタイトルカードとエンド・クレジットを追加し、VHSやDVDとして販売されています。

日本でも『ミッキーと豆の木』としてVHS化されました。ミッキーの声は1990年頃に担当されていた納谷六朗さんです。

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『ミッキーと豆の木』のみを収録したVHS

『とっておきの物語』シリーズの『ミッキーのジャックと豆の木』にも同じバージョンが収録されており、DVD化もされています。

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『おちゃめなドラゴン』も収録したVHS

1973年版

1973年に放送された『The Mouse Factory』では、女性腹話術師のシャリ・ルイスとラム・チョップ(相棒の羊の人形)がホストを務めました。こちらもシャリ・ルイスが語り手、ラムが聞き手と役割分担されています。腹話術師というチョイスが既にバーゲンさんとかぶっています。この設定だけで誰かが失神しそうな予感がしますね。正解です。

このバージョンは日本では放送されていません。

注意点

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このパッケージには吹替未収録


ウォルト・ディズニー・トレジャーズ』の『ミッキーマウス カラー・エピソード Vol.2 限定保存版』の特典映像として『ミッキーと豆の木』が収録されています。これは、1947年版『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の後半部分をそのままトリミングして収録したものとなっており、英語音声+日本語字幕のみとなっています。吹替版は未収録なのでご注意ください。

情報提供求む…!

追記1

ディズニー・チャンネルにて、2004年に1時間枠で『ミッキーのクリスマスキャロル』と『ミッキーと豆の木』が放送された際、前者は青柳版、後者は納谷版が放送されました。2018年にも納谷版『豆の木』が放送されたそうなのですが、その間に独自編集の『豆の木』が放送されたという情報をいただきました。

放送内容としては、1963年版を短縮したもので、ハーマンの出番が全てカットされており、ドレイク教授の声も現行VHSの大木民夫さんではなく、沢りつおさんらしき新録だったとのことです。実際に見たという方や、そもそも録画を持ってるぞという方がいらっしゃったら、ぜひ情報提供のほどお願い致します…!


twitter.com

追記2

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Disney Learning Adventure


追加でいただいた情報により、2006年発売のこちらのDVDに、1963年版と思われる動画素材にドレイク教授らのストーリーテリング部分を現行キャストで新録したバージョンが収録されていることがわかりました。


ドレイク教授:沢りつおさん、ハーマン:阪口大助さん、巨人のウィリーを2005年にご逝去された西尾徳さんに代わって田中英樹さん(その後の『ミッキーマウス クラブハウス』でもウィリー役を担当)が演じているようです。


新録部分はストーリーテリングのみで、ミッキー、ドナルド、グーフィー、ウィリー、ハープの物語部分はWOWOW版の流用のようです。


ここまで、2018年にディズニー・チャンネルに納谷版が放送されたというWikipediaの情報を前提に考えていたのですが、実際に放送されたのは青柳版だという証言が数名から出ておりますので追加調査をしたいと思います。2004年に納谷版が放送されたことは確認済みですので、2006年に青柳版の素材が制作されて2018年での放送時にそちらに差し替えたのであれば辻褄は合います。


情報をご提供くださったTORIさん(https://twitter.com/TORI198674)、たけさん(https://twitter.com/take_poron)、ありがとうございました!

追記3

確認を続けましたところ、2018年にディズニー・チャンネルで『ミッキーと豆の木』として放送されたのは納谷版で間違いないようです。ディズニー・チャンネルで流れた青柳版はそれとは別バージョンの可能性がありそうです。

おわりに

『ボンゴ』と『ミッキーと豆の木』と『ファン・アンド・ファンシー・フリー』。出自は同じ作品でも、劇場再公開やTV放映、VHS発売に合わせて様々な形にアレンジされてきたことがわかると思います。これもまた思い入れは人それぞれ。個人的には、一つの作品を様々な味付けで楽しめるありがたい現象だと思うのですが、いかがでしょうか…?

ディズニー日本語吹替概論

ディズニー作品の日本語吹替が始まってから約60年。言い回しの変化やキャラクターの声の統一を図るなど様々な理由で、1つの作品の中でも様々な吹替が制作されてきました。そのため、人によって思い入れのあるバージョンが違ったり、バージョン変更にケチをつける人がいたりで、吹替というのは実に奥深い文化なのだと言えましょう。


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『ダンボ』の音声は英語版では1パターンしかないのに、日本語版は4種類も存在する


しかし、子供の頃に親しんだ作品のDVDを購入し、いざワクワク再生してみると「吹替が違う!なんで変えたんだ、ディズニーの○○!」という暴言が後を絶たないこの世界。お気持ちは分からないでもないですが、事前に情報を仕入れておけばそんな思いを防げるかもしれません。

というわけで、こういった外国作品ならではのディズニーの吹替事情やバージョンの変遷、パターンなどをご紹介していきましょう。ややこしい点もありますが、これさえ押さえておけばディズニーの吹替事情は大体わかっていただけるでしょう。

一部表記は『ディズニー データベース』本館に準拠しておりますので、こちらも併せてよろしくお願いします。

初公開版

日本最初のディズニー吹替は長編アニメーション第4作となる『ダンボ』(1941年:日本では1954年)でした。当時はまだアニメも普及しておらず声優という職業がもほぼ定着していなかったため、俳優が起用されていました。落語家が多く起用されているのもこの時代の特徴です。

おすピーの2人によると「わんわん物語の頃からディズニーのアメリカのスタッフがラジオを聞いて決めてたのよ。永六輔とか馬風とかね」とのこと。この2人が参加したわんわん物語は1956年に日本公開されているので、本国スタッフによるキャスティングは最初の頃から行われていたことが分かります。

なお、これらの作品の多くは1980年以降に新録が行われているため、現在の視聴は不可能(=絶滅)となっています。

以下、初公開版の吹替(=現在DVDに収録されていないバージョン)が存在する初期の作品です。(日本初公開時が英語のみ→再公開時に吹替が初登場した場合も“初公開版”として扱います。)

本国公開 日本公開 備考
ダンボ 1941年 1954年 絶滅
わんわん物語 1955年 1956年 絶滅
バンビ 1942年 1957年 絶滅
白雪姫 1937年 1957年 絶滅
ピノキオ 1940年 1958年 絶滅
眠れる森の美女 1959年 1960年 旧VHSに収録
シンデレラ 1950年 1961年 絶滅
101匹わんちゃん] 1961年 1962年 絶滅
王様の剣 1963年 1964年 ※絶滅
ジャングル・ブック 1967年 1968年 絶滅
おしゃれキャット 1970年 1972年 現ソフトに収録
ふしぎの国のアリス 1951年 1973年 絶滅
ロビン・フッド 1973年 1975年 現ソフトに収録
ビアンカの大冒険 1977年 1981年 絶滅
リトル・マーメイド 1989年 1991年 旧VHSに収録

TV版

テレビで洋画を放送する際、局によって別バージョンの吹替が放送されるケースがあります。現在は米ディズニーが世界中のキャラクターの声のイメージを統一するために厳しく監修しているので、ディズニーアニメで複数バージョンの吹替を制作することはありません。

地上波放映版

しかし、1980年代まではその意識が希薄だっためか、テレビ局によって独自に新たな吹替が制作された非常にレアなパターンが存在しました。まだ規制が緩かった頃、TV用の新録を実現したのはTBS。今では映画放送のイメージが薄いチャンネルですが、吹替ファンの間では『グーニーズ』や屋良版『コマンドー』などで知られるTV局であります。

ディズニーの長編アニメとしては『ピーター・パン』(ピーター・パン:榊原郁恵、フック船長:大塚周夫)、『ダンボ』(ティモシー:井上順)、『ふしぎの国のアリス』(アリス:キャロライン洋子、ハートの女王:ペギー葉山)、『ファン・アンド・ファンシー・フリー』(ジミニー・クリケット熊倉一雄)の4作品が確認されています。

他にも、当時吹替が存在していなかったミッキーたちの短編アニメを新録して放送した、日本テレビの『ミッキーマウスとドナルドダック』(ミッキー:山田栄子、ドナルド:緒方賢一)などがあります。

TVシリーズにはなりますが、テレビ東京での初放送時に独自キャストでの吹替を制作し、後にWOWOW放送時に現行キャストで全話新録し直した番組(『わんぱくダック夢冒険』『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』)も存在します。

WOWOW版、ディズニー・チャンネル版

これまで吹替が制作されなかった作品(または公式が認めた吹替が存在しない作品)をWOWOWやディズニー・チャンネルで放送する際、吹替を新録するケースがあります。これらは公式が関与しているため、ミッキーやプーなど既存のキャラクターが出演する作品であれば現行のキャストが採用されます。(大体の作品は『ディズニー データベース』でも後述の新版として扱っています)

ただし、『くまのプーさん 完全保存版』などWOWOW版が決定版として採用されなかった非常にレアなケースも存在します。

旧版(旧VHS版)

初期のディズニーのビデオを扱っていたポニーキャニオンバンダイによって販売された吹替があります。いわゆるポニー版・バンダイ版(当サイトでは旧版と表記)であり、世間一般に旧吹替といえばこの時期のものを指すことが多いようです。劇団昴の俳優が多く起用されているといった特徴があります。また、短編映画にはオリジナルのナレーションがついていたり、原語に捉われない邦訳などから人気が高いシリーズとなっています。

現在、ディズニー・ジャパン自らがDVDを販売する体制になったため、非公式となったこれらの旧版は絶滅していきますが、『ダンボ』『ふしぎの国のアリス』『王様の剣』などの作品は新版に流用され、現在でもこの吹替が公式に使われています。※当サイトでは旧・新版と表記。

再公開版

すでに吹替が存在する作品でも劇場再公開時に、新たなバージョンが作られることがあります。

現在確認できているのは、1980年版『白雪姫』(白雪姫:小鳩くるみ)、1981年版『101匹わんちゃん』(ポンゴ:池水通洋)、1983年版『ダンボ』(ティモシー:三田松五郎)、1984年版『ピーター・パン』(ピーター・パン:岩田光央)、1989年版『わんわん物語』(レディ:藤田淑子)、1992年版『シンデレラ』(シンデレラ:鈴木より子)、1995年版『眠れる森の美女』(オーロラ姫:すずきまゆみ)の7作品で、『ダンボ』以外は現行のDVDに収録されています。

1997年版『リトル・マーメイド』のように、初公開版の音源の歌のみ同じキャストによる新録で差し替えを行った珍しいバージョンもあります。

新版

1990年代以降、東京ディズニーランドによるディズニーの普及や、ビデオをディズニー・ジャパンが販売するようになったことにより、日本語版声優の統一を図るべく、既に吹替が存在するでも、ビデオ用やCS放送用に吹替が作り直されることになりました。

2019年現在、DVDやブルーレイに収録されているものはほとんどがこのバージョン(または再公開版)であり、当サイトでは新版と表記しています。

備考
バンビ VHS用に新録
三人の騎士 VHS用に新録
ファン・アンド・ファンシー・フリー WOWOW用に新録
メロディ・タイム ディズニー・チャンネル用に新録(DVD収録)
イカボードとトード氏 ディズニー・チャンネル用に新録
ジャングル・ブック VHS用に新録
くまのプーさん 完全保存版 VHS用に新録
ビアンカの大冒険 VHS/DVD用に新録

※実はVHS発売よりも先に劇場公開されている可能性もあります。

ただ、新版の際に全編新録が行われなかった例があります。前述のとおり、旧版の『ダンボ』『ふしぎの国のアリス』『王様の剣』の3本です。

新版(DVD版)

時代の流れにより、ビデオで使われた表現が教育上好ましくないと判断され、DVD発売の際に一部台詞を録り直すケースがありました。『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』などが有名です。例えば、「いかれてる」が「へんてこ」、「酋長」が「チーフ」に変更といった具合で、あまりに歌の場合は一曲まるごと録り直すような場合もあります。

また、ある演者の不祥事により一部のキャラクターの声優だけがまるごと変更されるという稀有なケースもあります。『アラジン』『アラジン ジャファーの逆襲』『アナと雪の女王』『アナと雪の女王 エルサのサプライズ』『アナと雪の女王 家族の思い出』『LEGO アナと雪の女王 オーロラの輝き』が挙げられます。

追加録音

ソフト化や再公開の際に、音声の欠落部分および追加シーンの追加録音が施されるケースがある。

備考
おしゃれキャット VHS発売時、1972年初公開時の音源に一部追録&差し替え
ピノキオ VHS発売時、1983年再公開版の音源に一部差し替え
美女と野獣 2002年IMAX公開時、劇場公開版の音源に一部追録
ライオン・キング 2002年IMAX公開時、劇場公開版の音源に一部追録

パブリック・ドメイン

100円ショップなどでディズニーのDVDが発売されていることがありますが、これは著作権が切れた映画に独自に吹替を付けて販売しているものとなります。これを買って「昔の吹替と違う!」と文句をつけるのはご法度なのですが、Amazonのレビューなどでは同じ映画を収録していれば公式だろうと非公式だろうとすべてまとめて表示されてしまうので、買う前にきちんとチェックしましょう。こちらに関しては当サイトでは基本ノータッチとしています。

おわりに

以上が、アニメにおけるディズニー吹替のほぼ全パターンとなります。やや古めの実写映画も含めると機内上映版やオンデマンド配信版などさらに限定的なバージョンも存在します。

これだけ長い歴史があるのですから、同じ『ダンボ』好きでも思い入れのあるバージョンが違うのは当然です。実際、ネットでは「リトル・マーメイドの歌詞は前のほうが良い」みたいな意見をよく見かけます。好きなものを好きと愛でるのは大変良いことですが、好みは人それぞれですのでお気に召さないバージョンを大声で攻撃しないようにしましょう。


それでは、楽しい吹替ライフを!


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※この記事は2012年8月15日に『ディズニー データベース』本館に投稿した記事を再構成したものです。
※TORIさん(https://twitter.com/TORI198674)より、『シンデレラ』現行吹替版の初出がVHSではなく劇場再公開とのご指摘をいただきましたので、修正いたしました。この場を借りて御礼申し上げます。

ディズニーに学ぶハロウィンの起源

みなさん、こんばんは。もうすぐハロウィンですね。皆さんはハロウィン派ですか、ハロウィーン派ですか?


さて、ディズニーでハロウィンといえば、東京ディズニーリゾートスペシャルイベント「ディズニー・ハロウィーン」かと思います。こっちはハロウィーンなんですね。このスペシャルイベントももうすぐ終了ということで、巷では様々な攻略情報等々が飛び交っていることかと思います。しかし、当サイトではいつもの地味なテイストで行きたいと思います。


当ブログの「ディズニーを通して知見を広げる」という謎のキャッチフレーズに伴いまして、今回は意外と答えられないハロウィンの基礎知識を固めていきたいと思います。習得できた暁には、来年のディズニー・ハロウィーンでお連れ様に自慢していただけたらと思います。

ハロウィンの起源

ハロウィンは、古代ケルト民族の大晦日にあたるサウィン祭が起源だといわれています。ケルト民族とは、中央アジアの草原から馬と馬車を伴ってヨーロッパに移住した民族。10世紀のケルト人たちの王国を描いた映画が『メリダとおそろしの森』です。


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ピクサースコットランド代表メリダ選手


この日は、先祖の霊が家族に会いに戻ってくるとされていました。この点は『リメンバー・ミー』に登場する死者の日に通じるところがありますね。なお、死者の日はメキシコなどラテン・アメリカの祝日で、11月2日です。日付も内容も似ていますが、ハロウィンとは別物のようです。


ちなみに、このハロウィンの夜には先祖だけでなく悪霊も一緒にやって来て、悪いことをするので、悪霊を驚かせるために人々は恐ろしい仮装をしました。これがハロウィンの仮装の起源だと言われています。ハロウィンの仮装がオバケだったりドラキュラだったり恐ろしいものなのはこういう理由によるものだそうです。でも悪霊にオバケの仮装は有効なのだろうか。

トリック・オア・トリート

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三つ子たちは魔法使い、悪魔、オバケに仮装


ハロウィンのイベントと言えば、子供たちが仮装をして近所の家を練り歩くあの光景です。「トリック・オア・トリート(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ)」という脅迫めいた文言を武器に、近所からお菓子をもらって歩き回ります。ちなみに、子供の訪問を歓迎している家は玄関の明かりがついている家だそうで、明かりがついていない家はこのイベントに興味がありませんという意思表示なんだとか。なお、お菓子にも悪霊を追い払う効果があるそうです。


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甥っ子をからかうドナルドの家の玄関にはちゃんと明かりが


このトリック・オア・トリートは子供がやるイメージですが、「やっていいのは小学生まで」「中学生まで」など、人によってそのイメージは異なるようです。ハロウィン当日を描いた実写映画『ホーカス ポーカス』でも高校生のマックスが、小学生の妹のトリック・オア・トリートに付き添わされ、近所の不良にからかわれるのを嫌がるシーンがあります。


イムリーなところでは、一昨日のニュースでバージニア州チェサピーク市が「トリック・オア・トリートは14歳まで。15歳以上に対しては罰金250ドルを課す」といった条例を発表し、注目を集めました。2016年にはカナダのニューブランズウィック州バサーストでも同様の条例を発表しました。元々高齢者の多いこの町では、「そんな条例を出したらますます若い人が住まなくなる」といった批判を出しています。

ジャック・オ・ランタン

ハロウィンのシンボルといえば、目、口、鼻をくり抜いて作るかぼちゃのランタン「ジャック・オ・ランタン」。昔、悪いことばかりしていた鍛冶屋のジャックが天国にも地獄にも行けなくなったため、ランタンに火を灯して彷徨い続けたという逸話がモデルになっています。この亡霊は鬼火伝承のひとつ「ウィル・オ・ウィスプ」とも直結しており、この「ウィル・オ・ウィスプ」が登場するのが、やっぱり『メリダとおそろしの森』というわけです。


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ウィル・オ・ウィスプ feat. メリダ


ハロウィンのジャックといえば、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の主人公ジャック・スケリントンを思い浮かべる人も多いかと思います。ジャックはパンプキン・キングとして知られており、映画の序盤では、かぼちゃのランタンの頭を持った姿で登場します。これはなぜかというと、ジャック・オ・ランタンはしばしばかぼちゃの首を持つ男として描かれるため、ジャック・スケリントンがそれをオマージュした姿で登場しているというわけです。


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映画序盤のパンプキン・キング


イカボードとトード氏』に登場する首なし騎士もかぼちゃの頭のイメージがあるキャラクターのひとりです。これもジャック・オ・ランタンの影響を色濃く受けていると言えるでしょう。


ディズニーの作品にはハロウィンに関係するエピソードが非常にたくさんあります。物語を楽しむだけでなく、その文化の背景や歴史に目を向けてみると、また新たな発見ができるかもしれませんね。


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『シリー・シンフォニー』(3)アニメ初のアカデミー賞

世界で初めてアカデミー賞を受賞したアニメーションは何でしょう?


1932年、ディズニーはまた新たな試みに挑戦します。『花と木』というモノクロのアニメを作っていた時、彼らはちょうどテクニカラーの技術を学んでいました。この技術をアニメーションで契約を結んだことで、ウォルトは兄のロイに『花と木』をカラーで作り直すと宣言しました。


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「え、マジで……?」


カラーの予算はモノクロの3倍。ロイはまたもや資金集めに奔走するのでした。彼のことは親しみを込めて「資金集めのロイ」とでも呼んであげてください。


さて、それまでのカラー映画というと、キネマカラー(シネカラー)が一般的でした。赤と緑のフィルムを交互に高速表示してチカチカ見せることによって、カラーに見えるという目の錯覚を利用したものでした。この技術は1909年から使われましたが、上映設備や戦争の影響でわずか5年で消えていってしまったのです。


一方、ディズニーの学んでいたテクニカラーという技術は3原色を用いたカラーでした。赤、緑、青の三色を組み合わせて作る綺麗なカラーのことで、ディズニーはこれを3年間独占して使う契約を結んでいました。


アブ・アイワークスをはじめとするライバル達はキネマカラー、つまり2原色のカラーしか使えませんでした。テクニカラーとキネマカラーの最大の違いは3原色のうち、青が綺麗に出せるかといったところでした。


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見よ、これがテクニカラーの”青”だ!


このテクニカラーが実写映画に広く採用されるようになったきっかけがMGMの「オズの魔法使」(1939年)なのですが、それはまた別のお話なのであります。


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テクニカラー様様のマンチキンのシーン


世界初のトーキーアニメーションに続いて、またもや世界初であるカラーアニメーションをディズニーは実現してしまったのでした。ちなみに1932年の第5回アカデミー賞は、初めてアカデミー短編アニメ映画賞が新設された年でした。アニメ史上初のアカデミー賞はディズニーの『花と木』だったわけです。


『花と木』は、若い木のカップルの物語。二人の様子が気に食わない年老いた嫌われ者の木は火をおこして妨害しようとしますが、それによって自滅してしまいます。最終的には花や森たちの消火活動のおかげで無事にハッピーエンドを迎えます。花や木たちがその特性を活かしたリアクションや、結婚行進曲のメロディを奏でるシーン、そして火を消した雨上がりに虹が架かるシーンなど初期のディズニークラシックらしいセンスが光る一作です。音楽とアニメーションの面白さに鮮やかな色が加わり、ディズニーのアニメーション映画はさらなる魅力を増したのでした。


そんなシリー・シンフォニーはスタッフの教育の場であり、新しい技術実験の場でもあったのですが、いくつもの高い評価を得る作品も制作し、アカデミー短編アニメ映画賞を6回も受賞しました。あのミッキーさんやドナルドさんですら1回しか成し得なかった偉業であることを踏まえると、その評価の高さが窺えることでしょう。


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『シリー・シンフォニー』(2)新たな出発点『骸骨の踊り』

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骸骨の踊り


『骸骨の踊り』は、深夜の墓地を舞台に骸骨たちがグリーグ作曲の「小人の行進」に合わせて踊るというホラー風の作品。


音楽とアニメーションの融合はミッキーで経験済みでしたが、ウォルトの完璧主義はここでも遺憾無く発揮され、納得いくまで録り直しが行われました。


教会や墓地が映し出され、怪しげなフクロウや黒猫たちの様子が描かれます。そこへ墓地から4体のガイコツが登場し、踊り始めます。ガイコツたちはお互いの骨の身体を木琴のように使って演奏したり、陽気に動き回ります。やがて朝が来て…。


こうして作り上げた『骸骨の踊り』。しかし、『蒸気船ウィリー』の公開時に後押しをしてくれたパット・パワーズの反応は...。


「ガイコツはいいから、ネズミをもっと作ってくれ」


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ショックのあまり崩れ落ちるガイコツたち


なんという悲しいお言葉でしょう。パワーズにとっては売り物になるかがすべて。ガイコツは要らない子呼ばわりされてしまったのです。


さて、『骸骨の踊り』がどれほどスベったかというとそんなことはありませんでした。ミッキーほどのヒットにはならなくとも、ミッキーに関心を持たなかったような層にも幅広くトーキーアニメの面白さを感じてもらえる機会となりました。


その後もアブ・アイワークスは精力的に『シリー・シンフォニー』を制作しますが、方向性の違いからウォルトと摩擦を生じるようになっていました。ウォルトはアニメをより良くするため、ミッキーで得た収益のほとんどをシリー・シンフォニーに費やしていました。そのため、スタッフの賃金も決して良いものではありませんでした。


そして、1930年1月。ウォルトの兄ロイはパワーズが怪しいと睨み始め、ウォルトに「契約内容をハッキリさせるべき」と提案しました。


どこかで聞いたような展開ですが、案の定パワーズはディズニーのスタジオとアニメーターを乗っ取ろうとしていました。ただし前回と違うのは、アブも引き抜こうとしていたこと。パワーズはディズニー作品の質の秘訣は作画担当のアブだと思っており、低賃金のアブにとっても美味しい話でした。


ウォルトはパワーズの条件に乗ってもスタジオの儲けがほとんど無いと判断したため、約10万ドルの手切れ金を支払い、パワーズとアブに別れを告げました。アブは新しいスタジオを作ってアニメ制作を続けますが、大したヒットはせず、ウォルトのアイデアマンとしての実力を思い知ることとなったのです。


一方、ディズニーは配給をコロンビア・ピクチャーズに変更して1930年から1932年までアニメ制作を行いましたが、大きなヒットには繋がりませんでした。コロンビアに契約内容の変更を頼むも失敗。ウォルトとロイは配給会社をユナイテッド・アーティスツに変更し、ここから新たな挑戦に臨むこととなるのです。

『シリー・シンフォニー』(1)90周年なので真面目に祝う

こんにちは。最初に数行ほど自己紹介から。


私事ではありますが、本日を持ちまして「ディズニーデータベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)は開設10周年を迎えました。今後の目標は自己満足+ちょっと役に立つレベルを目指していけたらと思います。皆さんがマイナーなディズニー用語を検索した時に検索結果にちょこっと顔を出すことがありますので、その際はよろしくお願いします。(メジャーな単語だと多分出てきません)


さて、雑談はこの辺にして、10周年記念記事として、「シリー・シンフォニー」の概要についてご案内していきたいと思います。


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ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーにある「ミッキーマウス」と「シリー・シンフォニー」の看板


というのも、「シリー・シンフォニー」はちょうど4週間前に、90周年を迎えた節目の年であるからです。また、ちょうど先日ミッキー誕生の歴史を紹介したところなので時期的にもバッチリです。


というわけで、前提知識として以下の記事をチェックしておくのがおすすめです。(宣伝)


disneydb23.hatenablog.com

disneydb23.hatenablog.com

disneydb23.hatenablog.com


さて、アニメと音楽の融合という一大センセーションを巻き起こした『蒸気船ウィリー』。配給のパット・パワーズや音楽のカール・ストーリングの協力でミッキーはデビュー作にして大ヒットを収めました。


さて、『蒸気船ウィリー』の前にサイレントで制作したミッキー映画も存在したことを覚えていらっしゃるかと思いますが、この『プレーン・クレイジー』や『ギャロッピン・ガウチョ』もトーキーに作り直されました。


その後、作られたミッキーの新作はどれももちろんトーキーでした。観客は音楽に合わせて動くいたずらミッキーに喜び、大いに笑いました。


しかし、ミッキーのキャラクターとストーリーを重視したいウォルトと、音楽を重視したい音楽担当のカール・ストーリングの間で意見が割れ始めました。


「では、ミッキーのシリーズと音楽のシリーズを分けよう」


こうして、音楽をメインに据えた新シリーズ『シリー・シンフォニー』が誕生したのです。


『シリー・シンフォニー』では、ミッキーやミニーといった既存のキャラクターに捉われることなく、単発作品としてより自由な発想で作品を手掛けることができました。ウォルトはこちらのシリーズを利用してアニメの新たな技法を実験したり、アニメーターの育成の場として活用しました。(短編映画で技術を培ったり若手を育成する手法は、現在のディズニーやピクサーでも生き続けているやり方です)


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風車小屋のシンフォニー


『風車小屋のシンフォニー』では、遠近法を表現する設備「マルチプレーン・カメラ」を導入しました。カメラが動くと近くのものは速く、遠くのものはゆっくり動きますよね。マルチプレーン・カメラとはそれを実現した技術であり、アカデミー短編アニメ賞を受賞しています。


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春の女神


また、『春の女神』という作品では人間の女性の姿をしたキャラクターが登場します。これは、3年後に公開される『白雪姫』に向けて、人間の女性を描く訓練の一環だったのです。


さて、そんなシリーズの第1作となる『骸骨の踊り』が公開されたのは、1929年8月。ミッキーで成功を収めてから9ヶ月後のことでした。