ディズニー データベース 別館

「ディズニー データベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)の別館です。日本の誰か一人にでも響けばOKな記事を書いていきます。

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』完全バージョン解説ガイド

先週の金曜日。

ディズニーデラックスでマイナーな作品『ファン・アンド・ファンシー・フリー』が配信されまして、そちらが38年前にTBSで地上波放映された貴重な吹替版であることが判明しました発覚の経緯は、バージョン特定をされた方が直々にまとめてくださいましたので、そちらをご参照ください。


togetter.com


というわけで、当サイト開設10周年を記念して作ったTwitterアカウントがたまたま功を奏したわけでした。めでたしめでたし。



…で終わってもいいのですがここはちょっと深堀りしたい。

今回の超レア音源の発掘はネット上でごく一部の反響を呼びました。もちろんTBS版の発覚に喜ぶ声もありますが、ミッキーがいつもの声と違うぞと公式に問い合わせた人もいたとかいないとか。中でも一番気になったのは、「昔見たやつと何か違う?」とか「あれ、もしかしてこの映画初見?」といったもの。

実はこういった意見が出るのはごもっともでありまして、この映画のバリエーションというもの、日本人がお目にかからないであろうものも含めて結構パターンがあります。それに伴い日本語吹替版もいくつかに分岐しているのです。

Wikipediaではフル版と単品版のキャストを一つの表にまとめたいらしく、これが誤解のもとになっているのではないかと思いました。というわけで、こういうマイナーな視点こそウチでやらねば、ということで『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の関連作品のバージョンをすべて振り返っていきますよ!

それでは1億3000万人の一人にでも、誰かの心に響くことを祈って…!

そもそもどんな映画?

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』は1947年に公開された映画で、『ボンゴ』と『ミッキーと豆の木』の2作品を繋げて長編映画にした作品です。

1942年から1949年までの間、戦中戦後のお金的にも期間的にもカッツカツだったこの時代であったため、短編を繋げて長編にするオムニバスという形式の作品が6本作られました。本作はその中のひとつです。

当初は『ボンゴ』も『ミッキーと豆の木』も長編映画として作りたかったのですが、長編映画を作る余裕がなかったため、オムニバスとして制作されました。

この2話に関連性はありませんが、幕間に『ピノキオ』のジミニー・クリケットが案内役として登場します。『世にも奇妙な物語』のタモさんをイメージしていただければと思います。しかし、ジミニーは語り手というわけではなく聞き手という立場で登場します。『ボンゴ』は歌手のダイナ・ショアが、『ミッキーと豆の木』は腹話術師のエドガー・バーゲンが語りを務めます。

吹替版

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』をフルで楽しむことができる吹替版は3種類あります。

TBS版 1981年4月3日放送
旧VHS版 1986年6月5日発売
WOWOW 1995年11月3日放送


WOWOW版がおなじみのキャスト陣による吹替であったため、ディズニーデラックスによる公式の配信でもこの版が使われると思われていました。しかし、蓋を開けてみると地上波放映時に独自に作られたTBS版が配信されていたのです。


通常、地上波で洋画を放送する際、吹替の音源は米国の映画会社から取り寄せるそうです。もしTV局で新録を行う際、放送終了後にその音源も映画会社が管理するとのこと。今回も同じ仕組みであれば、ディズニーデラックスで配信する際に音源を取り寄せたところ、日本側ではなく、アメリカ本社側がTBS版を送りつけてきた可能性が考えられます。その理由としては、「日本でDVDが発売されていないため、決定版の吹替がどれかわかっていなかったから」だったのではないでしょうか。本社側からすれば「日本語の音源がいくつか手元にあるけどどれが決定版なのよ?」って感じでTBS版を投げてきて、受け取った日本側も「わかりました。これが米ディズニーさんからお借りした音源なんですね!」って感じで配信したのかもしれません。どちらにせよ真相は藪の中です。


何はともあれ、今回TBS版がひょっこり出てきたことで、地上波放映用の素材もディズニーが丁寧に管理している可能性が出てきました。これは、今では見られないような劇場初公開当時の吹替もすべてしっかり管理されており、そして黒歴史ではなく公式の歴史として捉えられている可能性が期待できるということです。今後も封印された吹替がなにかの拍子に日の目を見るかもしれないという点で非常に意義のある出来事でした。あ、ちなみに一昨日投稿した『ディズニー日本語吹替概論』はこの記事のための前座なのでした。


disneydb23.hatenablog.com



さて、閑話休題。『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の吹替版3種はいずれもノーカットです。なので、本作を見たことがあるはずなのに、今回ディズニーデラックスの配信を見て知らないシーンがあったという方は、実は『ファン・アンド・ファンシー・フリー』を見たことがなかったということになります。そういった方々は、恐らく後述の『ボンゴ』単品か『ミッキーと豆の木』単品を見たのだと思われます。

ボンゴ

『ボンゴ』はサーカスから抜け出したクマを主人公としたアニメーションです。

↓あらすじはこちら
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ナレーション
1947年版 ダイナ・ショア
1971年版 ジミニー・クリケット
1992年版 ダイナ・ショア

1971年版

1971年に劇場公開されたバージョンでは、ジミニー・クリケットが案内役とナレーションを兼任しています。初代ジミニー声優のクリフ・エドワーズが最後に担当した作品です。

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『ボンゴ』1971年版を収録

日本ではこちらのVHSに収録されています。(ジミニー・クリケット肝付兼太

歌は謎の女性シンガーが担当していますが、熊が頬ピシャリする歌も肝付さん自ら歌います。

1992年版

アメリカで1992年に発売されたこのバージョンは、1947年版の『ボンゴ』のアニメーション部分のみを収録している、オリジナルに近い編集となっています。ジミニーの案内役のシーンは全カットで、純度100%のボンゴです。

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純度100%の『ボンゴ』を収録

日本では、『とっておきの物語』シリーズの『ピーターとオオカミ』にも併録されています。吹替は『ファン・アンド・ファンシー・フリー』のWOWOW放映時の『ボンゴ』部分の流用となります。(ナレーション/歌:戸田恵子

ミッキーと豆の木

こちらは、ミッキー、ドナルド、グーフィーの3人が『ジャックと豆の木』を演じる作品。『ミッキーのクリスマスキャロル』に登場する巨人のウィリーのデビュー作でもあります。

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『ファン・アンド・ファンシー・フリー』(以下、1947年版)では、物語の最後に聞き手のモーティマー(腹話術人形)がウィリーの死を哀しみます。すると話し手のバーゲンさんが「巨人は空想上の生き物だから泣かないで」と励まします。すると、バーゲンさんの家の屋根をウィリーが剥がし、バーゲンさんが失神するというオチで締められます。

『ミッキーと豆の木』の単品バージョンは大きく分けて3種類あります。

ストーリーテラー 聞き手
1947年版 エドガー・バーゲン ルアナ、チャーリー、モーティマー
1955年版 ナレーション -
1963年版 ルードヴィッヒ・フォン・ドレイク ハーマン
1973年版 シャリ・ルイス ラム・チョップ

1955年版

1955年に放送されたTV番組『ディズニーランド』の中で放送されたこのバージョンは、バーゲンさん達の掛け合いをカットし、スターリング・ホロウェイ(プーさんの声でおなじみ)のナレーションで構成されているシンプルなバージョンです。

物語の最後には、番組のホストであるウォルト本人のもとに、巨人のウィリーが現れてウォルトと会話をします。

このバージョンはアメリカで何度も再放送が行われたらしいのですが、ウォルトとウィリーの掛け合いは再放送ではカットされるのが通例のようです。アメリカでは馴染みのあるバージョンなのかもしれません。

日本でも日本テレビ系で1958年10月10日に放送されたんだとか。この番組は吹替版で放送されていたので、吹替版も作られていたと思われます。

1963年版

1963年放送の『Walt Disney's Wonderful World of Color』では、『The Truth About Mother Goose』という回の後半に『ミッキーと豆の木』が流されました。

ホストをルードヴィッヒ・フォン・ドレイク教授が、アシスタントを虫のハーマン・ザ・ブートル・ビートルが担当しました。

1947年版同様、教授がハーマンに物語を聞かせる形式です。最後には聞き手のハーマンがウィリーの死を哀しみます。すると話し手の教授が「巨人は空想上の生き物だから泣かないで」と励まします。すると、教授の家の屋根をウィリーが剥がし、教授が失神するというオチで締められます。どこかで聞いたことのある展開ですね!

このバージョンはタイトルカードとエンド・クレジットを追加し、VHSやDVDとして販売されています。

日本でも『ミッキーと豆の木』としてVHS化されました。ミッキーの声は1990年頃に担当されていた納谷六朗さんです。

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『ミッキーと豆の木』のみを収録したVHS

『とっておきの物語』シリーズの『ミッキーのジャックと豆の木』にも同じバージョンが収録されており、DVD化もされています。

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『おちゃめなドラゴン』も収録したVHS

1973年版

1973年に放送された『The Mouse Factory』では、女性腹話術師のシャリ・ルイスとラム・チョップ(相棒の羊の人形)がホストを務めました。こちらもシャリ・ルイスが語り手、ラムが聞き手と役割分担されています。腹話術師というチョイスが既にバーゲンさんとかぶっています。この設定だけで誰かが失神しそうな予感がしますね。正解です。

このバージョンは日本では放送されていません。

注意点

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このパッケージには吹替未収録


ウォルト・ディズニー・トレジャーズ』の『ミッキーマウス カラー・エピソード Vol.2 限定保存版』の特典映像として『ミッキーと豆の木』が収録されています。これは、1947年版『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の後半部分をそのままトリミングして収録したものとなっており、英語音声+日本語字幕のみとなっています。吹替版は未収録なのでご注意ください。

情報提供求む…!

追記1

ディズニー・チャンネルにて、2004年に1時間枠で『ミッキーのクリスマスキャロル』と『ミッキーと豆の木』が放送された際、前者は青柳版、後者は納谷版が放送されました。2018年にも納谷版『豆の木』が放送されたそうなのですが、その間に独自編集の『豆の木』が放送されたという情報をいただきました。

放送内容としては、1963年版を短縮したもので、ハーマンの出番が全てカットされており、ドレイク教授の声も現行VHSの大木民夫さんではなく、沢りつおさんらしき新録だったとのことです。実際に見たという方や、そもそも録画を持ってるぞという方がいらっしゃったら、ぜひ情報提供のほどお願い致します…!


twitter.com

追記2

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Disney Learning Adventure


追加でいただいた情報により、2006年発売のこちらのDVDに、1963年版と思われる動画素材にドレイク教授らのストーリーテリング部分を現行キャストで新録したバージョンが収録されていることがわかりました。


ドレイク教授:沢りつおさん、ハーマン:阪口大助さん、巨人のウィリーを2005年にご逝去された西尾徳さんに代わって田中英樹さん(その後の『ミッキーマウス クラブハウス』でもウィリー役を担当)が演じているようです。


新録部分はストーリーテリングのみで、ミッキー、ドナルド、グーフィー、ウィリー、ハープの物語部分はWOWOW版の流用のようです。


ここまで、2018年にディズニー・チャンネルに納谷版が放送されたというWikipediaの情報を前提に考えていたのですが、実際に放送されたのは青柳版だという証言が数名から出ておりますので追加調査をしたいと思います。2004年に納谷版が放送されたことは確認済みですので、2006年に青柳版の素材が制作されて2018年での放送時にそちらに差し替えたのであれば辻褄は合います。


情報をご提供くださったTORIさん(https://twitter.com/TORI198674)、たけさん(https://twitter.com/take_poron)、ありがとうございました!

追記3

確認を続けましたところ、2018年にディズニー・チャンネルで『ミッキーと豆の木』として放送されたのは納谷版で間違いないようです。ディズニー・チャンネルで流れた青柳版はそれとは別バージョンの可能性がありそうです。

おわりに

『ボンゴ』と『ミッキーと豆の木』と『ファン・アンド・ファンシー・フリー』。出自は同じ作品でも、劇場再公開やTV放映、VHS発売に合わせて様々な形にアレンジされてきたことがわかると思います。これもまた思い入れは人それぞれ。個人的には、一つの作品を様々な味付けで楽しめるありがたい現象だと思うのですが、いかがでしょうか…?