「座席から転げ落ちそうになった」
ある記者はこう書いたそうです。
世界初のトーキー・アニメーションとなった『蒸気船ウィリー』は『プレーン・クレイジー』の時には得られなかったような高評価を獲得しました。今まではなかったのに、アニメーションが音楽や音に合わせて動いているのですから、驚くのも無理はなかったことでしょう。
船員のミッキーは船長気取りで舵を取っていたところ、本物の船長ピートに怒られてしまいます。
ミッキーは途中で立ち寄った桟橋で雌牛を回収します。蒸気船が出発すると、バイオリンを持ったミニーが登場して船を追いかけます。ミッキーは船についていた釣り竿で見事ミニーのパンツを掴み、彼女を船に招待します。
ミニーの楽譜と楽器はヤギに食べられてしまいますが、そのおかげでヤギはオルゴールになります。ミッキーは船内の道具や動物を使ってセッションを始めます。今でもおなじみのミッキーのエンターテイナーっぷりはこの時から健在でした。
近年のお行儀よいミッキーに慣れている人が驚くのは、ネコの尻尾を引っ張って鳴き声で演奏したり、アヒルをバグパイプにしたり、動物を使って演奏するところでしょう。
母親の乳を飲む子ブタたちの尻尾を引っ張って演奏するという荒業まで披露します。その後、母ブタを持ち上げ、最後まで離れなかった子ブタに蹴りをカマスという衝撃的なシーンも。ちなみにこの蹴りのシーンの6秒間は現在のバージョンからは削除されているため、一部の旧ソフトにしか収録されていません。
最終的にピート船長に見つかり、怒られてイモの皮むきをさせられてしまうのもまたご愛嬌です。
★
さて、当時の短編アニメは併映だったので、長編映画の前に上映されていました。この作品の大好評により、観客からは「メインの長編を遅らせてでももう一回見たい」という声が挙がるほどでした。そして見向きもしなかった映画会社たちはハイエナのごとくミッキーにアプローチしてきました。
「毎週ギャラを出すからウチでミッキーを作らないか?」
「ミッキーの作品を高く買い取りたい」
しかし、ウォルトはミッキーに関しては独立を貫きました。それは、オズワルドの辛い経験があったから。そういえば、第1回で「二度と人の下でなんか働くもんか。」とキレていましたね。
こうして、ディズニーは世界最大のエンターテイメント企業となるべく、『蒸気船ウィリー』で幕を開けたのです。
さぁ、私たちも明日に向かって歩き出しましょう。そんな明日は平日だ。
完。