ディズニー データベース 別館

「ディズニー データベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)の別館です。日本の誰か一人にでも響けばOKな記事を書いていきます。

ディズニー日本語吹替概論

ディズニー作品の日本語吹替が始まってから約60年。言い回しの変化やキャラクターの声の統一を図るなど様々な理由で、1つの作品の中でも様々な吹替が制作されてきました。そのため、人によって思い入れのあるバージョンが違ったり、バージョン変更にケチをつける人がいたりで、吹替というのは実に奥深い文化なのだと言えましょう。


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『ダンボ』の音声は英語版では1パターンしかないのに、日本語版は4種類も存在する


しかし、子供の頃に親しんだ作品のDVDを購入し、いざワクワク再生してみると「吹替が違う!なんで変えたんだ、ディズニーの○○!」という暴言が後を絶たないこの世界。お気持ちは分からないでもないですが、事前に情報を仕入れておけばそんな思いを防げるかもしれません。

というわけで、こういった外国作品ならではのディズニーの吹替事情やバージョンの変遷、パターンなどをご紹介していきましょう。ややこしい点もありますが、これさえ押さえておけばディズニーの吹替事情は大体わかっていただけるでしょう。

一部表記は『ディズニー データベース』本館に準拠しておりますので、こちらも併せてよろしくお願いします。

初公開版

日本最初のディズニー吹替は長編アニメーション第4作となる『ダンボ』(1941年:日本では1954年)でした。当時はまだアニメも普及しておらず声優という職業がもほぼ定着していなかったため、俳優が起用されていました。落語家が多く起用されているのもこの時代の特徴です。

おすピーの2人によると「わんわん物語の頃からディズニーのアメリカのスタッフがラジオを聞いて決めてたのよ。永六輔とか馬風とかね」とのこと。この2人が参加したわんわん物語は1956年に日本公開されているので、本国スタッフによるキャスティングは最初の頃から行われていたことが分かります。

なお、これらの作品の多くは1980年以降に新録が行われているため、現在の視聴は不可能(=絶滅)となっています。

以下、初公開版の吹替(=現在DVDに収録されていないバージョン)が存在する初期の作品です。(日本初公開時が英語のみ→再公開時に吹替が初登場した場合も“初公開版”として扱います。)

本国公開 日本公開 備考
ダンボ 1941年 1954年 絶滅
わんわん物語 1955年 1956年 絶滅
バンビ 1942年 1957年 絶滅
白雪姫 1937年 1957年 絶滅
ピノキオ 1940年 1958年 絶滅
眠れる森の美女 1959年 1960年 旧VHSに収録
シンデレラ 1950年 1961年 絶滅
101匹わんちゃん] 1961年 1962年 絶滅
王様の剣 1963年 1964年 ※絶滅
ジャングル・ブック 1967年 1968年 絶滅
おしゃれキャット 1970年 1972年 現ソフトに収録
ふしぎの国のアリス 1951年 1973年 絶滅
ロビン・フッド 1973年 1975年 現ソフトに収録
ビアンカの大冒険 1977年 1981年 絶滅
リトル・マーメイド 1989年 1991年 旧VHSに収録

TV版

テレビで洋画を放送する際、局によって別バージョンの吹替が放送されるケースがあります。現在は米ディズニーが世界中のキャラクターの声のイメージを統一するために厳しく監修しているので、ディズニーアニメで複数バージョンの吹替を制作することはありません。

地上波放映版

しかし、1980年代まではその意識が希薄だっためか、テレビ局によって独自に新たな吹替が制作された非常にレアなパターンが存在しました。まだ規制が緩かった頃、TV用の新録を実現したのはTBS。今では映画放送のイメージが薄いチャンネルですが、吹替ファンの間では『グーニーズ』や屋良版『コマンドー』などで知られるTV局であります。

ディズニーの長編アニメとしては『ピーター・パン』(ピーター・パン:榊原郁恵、フック船長:大塚周夫)、『ダンボ』(ティモシー:井上順)、『ふしぎの国のアリス』(アリス:キャロライン洋子、ハートの女王:ペギー葉山)、『ファン・アンド・ファンシー・フリー』(ジミニー・クリケット熊倉一雄)の4作品が確認されています。

他にも、当時吹替が存在していなかったミッキーたちの短編アニメを新録して放送した、日本テレビの『ミッキーマウスとドナルドダック』(ミッキー:山田栄子、ドナルド:緒方賢一)などがあります。

TVシリーズにはなりますが、テレビ東京での初放送時に独自キャストでの吹替を制作し、後にWOWOW放送時に現行キャストで全話新録し直した番組(『わんぱくダック夢冒険』『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』)も存在します。

WOWOW版、ディズニー・チャンネル版

これまで吹替が制作されなかった作品(または公式が認めた吹替が存在しない作品)をWOWOWやディズニー・チャンネルで放送する際、吹替を新録するケースがあります。これらは公式が関与しているため、ミッキーやプーなど既存のキャラクターが出演する作品であれば現行のキャストが採用されます。(大体の作品は『ディズニー データベース』でも後述の新版として扱っています)

ただし、『くまのプーさん 完全保存版』などWOWOW版が決定版として採用されなかった非常にレアなケースも存在します。

旧版(旧VHS版)

初期のディズニーのビデオを扱っていたポニーキャニオンバンダイによって販売された吹替があります。いわゆるポニー版・バンダイ版(当サイトでは旧版と表記)であり、世間一般に旧吹替といえばこの時期のものを指すことが多いようです。劇団昴の俳優が多く起用されているといった特徴があります。また、短編映画にはオリジナルのナレーションがついていたり、原語に捉われない邦訳などから人気が高いシリーズとなっています。

現在、ディズニー・ジャパン自らがDVDを販売する体制になったため、非公式となったこれらの旧版は絶滅していきますが、『ダンボ』『ふしぎの国のアリス』『王様の剣』などの作品は新版に流用され、現在でもこの吹替が公式に使われています。※当サイトでは旧・新版と表記。

再公開版

すでに吹替が存在する作品でも劇場再公開時に、新たなバージョンが作られることがあります。

現在確認できているのは、1980年版『白雪姫』(白雪姫:小鳩くるみ)、1981年版『101匹わんちゃん』(ポンゴ:池水通洋)、1983年版『ダンボ』(ティモシー:三田松五郎)、1984年版『ピーター・パン』(ピーター・パン:岩田光央)、1989年版『わんわん物語』(レディ:藤田淑子)、1992年版『シンデレラ』(シンデレラ:鈴木より子)、1995年版『眠れる森の美女』(オーロラ姫:すずきまゆみ)の7作品で、『ダンボ』以外は現行のDVDに収録されています。

1997年版『リトル・マーメイド』のように、初公開版の音源の歌のみ同じキャストによる新録で差し替えを行った珍しいバージョンもあります。

新版

1990年代以降、東京ディズニーランドによるディズニーの普及や、ビデオをディズニー・ジャパンが販売するようになったことにより、日本語版声優の統一を図るべく、既に吹替が存在するでも、ビデオ用やCS放送用に吹替が作り直されることになりました。

2019年現在、DVDやブルーレイに収録されているものはほとんどがこのバージョン(または再公開版)であり、当サイトでは新版と表記しています。

備考
バンビ VHS用に新録
三人の騎士 VHS用に新録
ファン・アンド・ファンシー・フリー WOWOW用に新録
メロディ・タイム ディズニー・チャンネル用に新録(DVD収録)
イカボードとトード氏 ディズニー・チャンネル用に新録
ジャングル・ブック VHS用に新録
くまのプーさん 完全保存版 VHS用に新録
ビアンカの大冒険 VHS/DVD用に新録

※実はVHS発売よりも先に劇場公開されている可能性もあります。

ただ、新版の際に全編新録が行われなかった例があります。前述のとおり、旧版の『ダンボ』『ふしぎの国のアリス』『王様の剣』の3本です。

新版(DVD版)

時代の流れにより、ビデオで使われた表現が教育上好ましくないと判断され、DVD発売の際に一部台詞を録り直すケースがありました。『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』などが有名です。例えば、「いかれてる」が「へんてこ」、「酋長」が「チーフ」に変更といった具合で、あまりに歌の場合は一曲まるごと録り直すような場合もあります。

また、ある演者の不祥事により一部のキャラクターの声優だけがまるごと変更されるという稀有なケースもあります。『アラジン』『アラジン ジャファーの逆襲』『アナと雪の女王』『アナと雪の女王 エルサのサプライズ』『アナと雪の女王 家族の思い出』『LEGO アナと雪の女王 オーロラの輝き』が挙げられます。

追加録音

ソフト化や再公開の際に、音声の欠落部分および追加シーンの追加録音が施されるケースがある。

備考
おしゃれキャット VHS発売時、1972年初公開時の音源に一部追録&差し替え
ピノキオ VHS発売時、1983年再公開版の音源に一部差し替え
美女と野獣 2002年IMAX公開時、劇場公開版の音源に一部追録
ライオン・キング 2002年IMAX公開時、劇場公開版の音源に一部追録

パブリック・ドメイン

100円ショップなどでディズニーのDVDが発売されていることがありますが、これは著作権が切れた映画に独自に吹替を付けて販売しているものとなります。これを買って「昔の吹替と違う!」と文句をつけるのはご法度なのですが、Amazonのレビューなどでは同じ映画を収録していれば公式だろうと非公式だろうとすべてまとめて表示されてしまうので、買う前にきちんとチェックしましょう。こちらに関しては当サイトでは基本ノータッチとしています。

おわりに

以上が、アニメにおけるディズニー吹替のほぼ全パターンとなります。やや古めの実写映画も含めると機内上映版やオンデマンド配信版などさらに限定的なバージョンも存在します。

これだけ長い歴史があるのですから、同じ『ダンボ』好きでも思い入れのあるバージョンが違うのは当然です。実際、ネットでは「リトル・マーメイドの歌詞は前のほうが良い」みたいな意見をよく見かけます。好きなものを好きと愛でるのは大変良いことですが、好みは人それぞれですのでお気に召さないバージョンを大声で攻撃しないようにしましょう。


それでは、楽しい吹替ライフを!


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※この記事は2012年8月15日に『ディズニー データベース』本館に投稿した記事を再構成したものです。
※TORIさん(https://twitter.com/TORI198674)より、『シンデレラ』現行吹替版の初出がVHSではなく劇場再公開とのご指摘をいただきましたので、修正いたしました。この場を借りて御礼申し上げます。