今回は新着の書籍をご紹介します。
『ディズニーアニメーション背景美術集』が2019年11月28日に発売となりました。91年間のスタジオのアーカイブの中から、アニメーション映画を作る上で最も難しいと言われる背景画とレイアウトを特集した一冊となっています。
本書は、アメリカで発売された『Walt Disney Animation Studios: The Archive Series』シリーズの『Story』(2008年発売)、『Animation』(2009年発売)、『Design』(2010年発売)に続いて2011年に発売された『Layout & Background』の翻訳版となっています。アメリカ版ではミッキーのデビューした1928年から当時公開を控えていた『くまのプーさん』(2011年)までの作品が対象となっていましたが、今回日本で発売されたバージョンでは掲載アート数を300から400に拡大し、対象作品も最新作『アナと雪の女王2』(2019年)にまで拡大しての刊行となります。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオCOOのジェニファー・リー(『アナと雪の女王』でスタジオ初の長編アニメ女性監督を担当)の序文と、アニメーション・リサーチ・ライブラリーの謝辞を除けば文章はほとんど無く、背景美術の掲載に特化した一冊となっています。
そして本書では長編映画だけでなく、一部マイナー作品も含まれています。本稿では本書を手に取った人の中で、あまりディズニーに明るくない方へ向けて掲載作品に関して簡単に補足していきたいと思います。今回もいつものごとく、1億3000万人の誰か一人にでも響くことを祈って…!
掲載作品
長編アニメーション映画
以下の作品はウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが制作した長編アニメーション映画です。世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』(1937年)から『アナと雪の女王2』(2019年)まで58作品あり、本書にはそのうち48作品が掲載されています。
- アトランティス 失われた帝国(2001年)
- アナと雪の女王(2013年)
- アナと雪の女王2(2019年)
- アラジン(1992年)
- おしゃれキャット(1970年)
- オリバー~ニューヨークの子猫ものがたり(※1)(1988年)
- オリビアちゃんの大冒険(1986年)
- きつねと猟犬(1981年)
- くまのプーさん(2011年)
- ジャングル・ブック(1967年)
- シュガー・ラッシュ(2012年)
- シュガー・ラッシュ:オンライン(2018年)
- 白雪姫(1937年)
- シンデレラ(1950年)
- ズートピア(2016年)
- ターザン(1999年)
- ダンボ(1941年)
- チキン・リトル(2005年)
- 塔の上のラプンツェル(2010年)
- 眠れる森の美女(1959年)
- ノートルダムの鐘(1996年)
- バンビ(1942年)
- ビアンカの大冒険(1977年)
- ピーター・パン(1953年)
- 美女と野獣(1991年)
- ピノキオ(1940年)
- 101匹わんちゃん(1961年)
- ファンタジア(1940年)
- ファンタジア2000(1999年)
- ふしぎの国のアリス(1951年)
- ブラザー・ベア(2003年)
- プリンセスと魔法のキス(2009年)
- ベイマックス(2014年)
- ヘラクレス(1997年)
- ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!(2004年)
- ポカホンタス(1995年)
- ボルト(2008年)
- ムーラン(1998年)
- メイク・マイン・ミュージック(1946年)
- メロディ・タイム(1948年)
- モアナと伝説の海(2016年)
- ライオン・キング(1994年)
- ラマになった王様(2000年)
- リトル・マーメイド(1989年)
- リロ&スティッチ(2002年)
- ルイスと未来泥棒(2007年)
- ロビン・フッド(1973年)
- わんわん物語(1955年)
※1…公式表記は『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』。
『ディズニー データベース』では以下のリンクをご参照ください。
ちなみに、『ロジャー・ラビット』は実写とアニメーションを合成した長編映画となっておりまして、ディズニーの子会社であるタッチストーン・ピクチャーズという大人向け実写映画レーベルから公開されました。
ロジャー・ラビットはハリウッドの映画スターという設定で、実際に『ロジャー・ラビット』の公開後に3作品の短編アニメが制作されました。本書に掲載されている『おなかが大変!』はその中の一作品となります。
短編アニメーション映画
ミッキーマウス・シリーズ
以下の作品はミッキーマウスが主演した短編アニメーション映画です。
- ミッキーの愛犬(1939年)
- ミッキーのアナウンサー(1931年)
- ミッキーのオペラ見物(※2)(1929年)
- ミッキーの騎士道(1933年)
- ミッキーの巨人退治(1938年)
- ミッキーのグランドオペラ(1936年)
- ミッキーの造船技師(1938年)
- ミッキーの大演奏会(1935年)
- ミッキーのドキドキ汽車旅行(1940年)
- プルートの大暴れ(1934年)
- プルートの化け猫裁判(1935年)
※2…公式表記は『ミッキーのオペラ見学』。
ドナルドダック・シリーズ
以下の作品はドナルドダックが主演した短編アニメーション映画です。
- ドナルドのいたずらばち(1950年)
- ドナルドの恐怖の一夜(1945年)
- ドナルドの災難~仕事篇(1959年)
- ドナルドの博物館見学(1937年)
- リスのいたずら合戦(1950年)
- リスの冬支度(1949年)
グーフィー・シリーズ
以下の作品はグーフィーが主演した短編アニメーション映画です。
プルート・シリーズ
以下の作品はプルートが主演した短編アニメーション映画です。
- アーミー・マスコット(1942年)
- プルートの仲直り(1944年)
- プルートの南米旅行(1943年)
- プルートとモグラ(1950年)
シリー・シンフォニー
ミッキーマウスのアニメシリーズとともにスタートしたシリーズです。こちらはミッキーが登場せず、音楽とアニメーションの融合に特化したシリーズとなっています。アニメーター達スタッフの教育の場や、新たな表現技法の研究の場として使われ、アカデミー賞も多く受賞しています。
- 秋(1930年)
- 海の王ネプチューン(1932年)
- 黄金の王様(1935年)
- オオカミは笑う(1936年)
- 踊るニワトリ(1935年)
- かしこいメンドリ(1934年)
- キツネ狩り(1931年)
- 小ぞうのエルマー(※4)(1936年)
- 昆虫救助隊(1932年)
- 童話行進曲(1931年)
- 春の女神(1934年)
- 春(1929年)
- 真夜中のおもちゃ屋(1930年)
- ミュージック・ランド(※5)(1935年)
- モスの消防隊(1938年)
※4…公式表記は『子ぞうのエルマー』。
※5…公式表記は『音楽の国』。
しあわせウサギのオズワルド
1927年、ミッキーマウスが誕生する一年前にウォルト・ディズニーが制作したウサギのオズワルドを主人公にしたアニメシリーズです。オズワルドは1928年に訳あってディズニーを離れることになりますが、2006年に里帰りを果たし、今ではディズニーのテーマパークにも登場しています。
現在は『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット』というタイトルで知られていますが、かつては『しあわせウサギのオズワルド』というタイトルが一般的でした。
その他のマイナー作品6選
ここからは、本書で扱われている作品の中で最もマイナーな6作品について。
ザ・グーフィー・サクセス・ストーリー
アメリカで毎週放送されていた1時間番組『ディズニーランド』で、1955年12月7日に放送されたエピソード(シーズン2第12回)です。
グーフィーがひょんなことからディズニーにスカウトされ、大スターに登りつめるまでを彼の主演作品を交えて紹介します。彼の知られざる真実が明らかになり、グーフィーファンにも注目度の高い作品です。
一部の国では劇場公開もされたほか、日本では『グーフィー・ムービー ホリデーは最高!!』のDVDの特典映像に『グーフィーがスターになるまで』というタイトルで収録されています。
ディフェンス・アゲインスト・インベイジョン
1943年に米大陸間問題調整局の依頼で制作された作品です。
予防接種をすることで、人体はどのように細菌に対抗することができるかを紹介する教育用のアニメーション映像です。細菌に侵される人体を、攻撃を受ける都市に例えて表現しています。
ハウ・トゥ・リラックス
1957年11月27日、『ディズニーランド』で放送されたエピソード(シーズン4第11回)です。ホスト役のグーフィーが働きすぎの現代人にリラックスするための方法を提案します。この番組の中ではグーフィーの出演作品が紹介されます。
マジック・ハイウェイUSA
1958年5月14日、『ディズニーランド』で放送されたエピソード(シーズン4第26回)です。当時の視点から、アメリカ社会における未来の高速道路や自動車を描き出します。
マース・アンド・ビヨンド
1957年12月4日に放送された『ディズニーランド』のエピソード(シーズン4第12回)です。ウォルト・ディズニーがホストを務め、人類が火星で発見する新たなものについての予測とユーモラスな見解を紹介します。技術アドバイサーとしてウェルナー・フォン・ブラウン博士など本物の科学者も登場します。
アメリカでは2004年に発売されたDVD『Walt Disney Treasures: Tomorrow Land』に収録されていますが、日本では未発売です。
ミュージック・フォー・エブリバディ
『ディズニーランド』の後継番組『Walt Disney's Wonderful World of Color』1966年1月30日放送(シーズン12第16回)のエピソードです。
ホスト役のルードヴィッヒ・フォン・ドレイクが音楽を主題にした映画の映像を用いながら、人々の生活における音楽の重要性を紹介します。『メロディ・タイム』や『メイク・マイン・ミュージック』のほか、初回放映時には『ファンタジア』でボツとなった『月の光』のシーンも使われていたようです(『ファンタジア』のDVDに特典として収録)。
おわりに
ディズニーのアニメ作品の背景画に特化した資料集として、眺めるだけでも楽しめる資料的に価値の高い一作となっていると思います。長編映画から短編映画まで幅広く掲載されており、ほぼ年代順に並んでいるため作品の変遷を時代に合わせて見ることも出来ます。
なお、今回この本に掲載されているマイナー作品を検証した結果、TV番組や教育映像用に制作されたアニメーション部分の背景画であることがわかりました。カリフォルニア州バーバンクにあるディズニーのアニメスタジオではこうした作品の資料もきちんと保管されており、新作を作るスタッフが勉強のために資料を閲覧することがあります。90年以上の長い歴史を温故知新の精神で活かしていく、そんなディズニーの強みを感じられるシリーズと言えるかもしれません。