ディズニー データベース 別館

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第1回『白雪姫』~白雪姫ができるまで

暑い日が続きますね。みなさんごきげんいかがでしょうか?
今回は今年劇場公開85周年を迎える長編アニメーション映画の原点『白雪姫』をテーマに取り上げ、一年半ぶりの更新となる別館の再出発第1回の記事といたします。

『白雪姫』はウォルト・ディズニーが初めて手掛けた長編アニメーション映画で、絶対に失敗できない状況で大成功を収めた作品となりました。今回は『白雪姫』の歴史のいくつかのポイントを紐解いてみましょう。スタジオの映画作りの考え方や成功の秘訣が見えてくるかもしれません。

ストーリーを紡ぐ

1928年にミッキーマウスを成功に導いたディズニーは配給会社から「もっとミッキーを」と要求されるようになり、『三匹の子ぶた』(1934年)でミッキー以外にもヒット作を作れることを証明しました。しかし、「もっとミッキーを」が「もっと子ぶたを」に変わっただけで、根本的には何も変わりませんでした。

1934年の春、ウォルトはスタジオを拡張するための現状打破として長編アニメ映画の計画を進めました。1934年当時、アニメーションは音楽との調和やテンポの良いギャグがちりばめられた短編が主流でした。スタジオが短編アニメを製作する裏で、ウォルトはおとぎ話を研究し、『白雪姫』のストーリーを練っていました。ある程度ストーリーの原型が固まったところでウォルトはスタッフを集めて『白雪姫』の物語を説明しました。ウォルトのストーリーテリング能力はとても秀でており、その場にいる誰もが彼の物語に引き込まれたといいます。

アニメーション

アニメーションの草創期は動物がメインだったことから、リアルな人間のキャラクターの描写は困難とされていました。シリー・シンフォニーの『春の女神』(1934年)では主人公の女神ペルセポネを描き、女性の人間キャラクターの研究を行いました。『春の女神』の時点ではアニメーターにとっては満足行くレベルではなく、その後も3年かけて白雪姫を描く技術は向上していきました。ただし、男性を描く技術は向上せず王子の出番は減らされたといいます。

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物語を伝える

長編映画ともなれば短編映画との違いがいくつかあります。例えば、80分にも亘るカラーアニメーションは観客にとっても初めての経験だったので、落ち着いた色調を使用することに決めました。当時、高予算で長編アニメを作るという「ディズニーの道楽」批判の中には、「1時間もアニメを見てたら目がおかしくなる」といったものもあったようです。

また、これまでのように映像だけでストーリーを紡ぐのにも限界があり、物語を進めるための台詞を発する声優選びを慎重に行う必要がありました。ウォルトは白雪姫に「この世のものとは思えない現実離れした声の持ち主で歌の上手い人」を選びたいとして、顔を見ないでオーディションをしたいと要望しました。『白雪姫』はミュージカル映画でもあり、白雪姫と王子にオペレッタ調の声があてがわれました。

七人のこびと

映画人気に火をつけたのが、七人のこびとの存在でした。彼らの人数や特徴を決めるにあたり、かなりの労力が割かれたようです。最終的に決定した七人のこびとの名前は先生、おこりんぼ、ごきげん、くしゃみ、てれすけ、ねぼすけ、おとぼけです。ウォルトは七人のこびとの個性を際立たせることに着目しました。そして、こびとにはそれぞれ担当のアーティストを割り振りました。

こびとは大人気を博し、本作がアカデミー特別賞を受賞した際にはこびとたちをイメージした7体の小型のオスカー像が用意されたほどでした。次回作以降の『ピノキオ』、『ファンタジア』、『バンビ』が公開された際も「すばらしい出来だが、『白雪姫』ほどではない。こびとが出ていないから」と評されるなど、こびとの影響がいかに大きかったかがうかがえます。

リアルさを描く

芸術面での水準向上の功労者としてアニメーターのアルバート・ハーターが挙げられます。ウォルトは当時30代中盤で、20代のスタッフも多かったスタジオにおいて48歳のハーターの存在は長老のような存在でした。ウォルトは彼のイラストが他のアニメーターにインスピレーションを与える可能性に目をつけ、スタジオに来てもらっては絵を描いてもらっていました。彼のイラストには戯画が多く不条理で突飛なデザインも多く含まれていました。しかし、その不思議なデザインはシリー・シンフォニーで数多くのユーモラスな作品を生み出しました。また、ハーターはこれまでの「ゴムホースのような人間」のアニメーションではなく、人体解剖学に基づいたスタイルで絵を描くことのできる人物でした。観客をひきつけて感動させたいと考えていたウォルトにとって、ハーターのスタイルは必要不可欠でした。

楽家たち

『白雪姫』の音楽を担当したのは、フランク・チャーチルポール・スミス、リー・ハーラインの3名でした。チャーチルはディズニー初の商業的大ヒット曲「狼なんか怖くない」を制作しました。スミスは短編映画や実写映画で1930年代から1960年代まで数多くのディズニー作品を手掛けました。ハーラインは後に『ピノキオ』で「星に願いを」を作曲するディズニー音楽界のレジェンドでもあります


★★★★


公開から80年以上経った今でも、古さゆえの技術不足を感じさせない完成度の高さは目を見張るものがあります。絵の美しさ、音楽の旋律、無駄の無いストーリー展開、魅力的なキャラクター。『白雪姫』を鑑賞する際には、こうした裏側にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


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