※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。
世界が繰り返されていることを知ったマウスはその張本人を問いただすために、意を決してグリムホールドを開いた。
中から現れたムーアは自分を閉じ込めた張本人であるマウスを睨みつけていた。
マウス「あ、ど、どうも…。」
ムーア「えぇ、ご無沙汰。出してくれてどうもありがとう。」
ムーアは皮肉たっぷりに答えた。
ムーア「私を外に出したってことは何か魂胆があるんだろうね?」
マウス「えぇ、伺いたいことがあります。この世界は二周目なのですね?」
ムーアは目を丸くした。
目の前のちっぽけな動物がその事実に気付くとは思ってもみなかったのである。
ムーア「誰に聞いたか知らないけれど、あなたが存在することは認められていない。今度こそ消えてもらう!」
「もう、やめなさい。終わりにするんだ。」
その場にいた全員の視線が会議室の入口に立つ一人の男性に向けられた。
彼はロイ・ディズニーだった。
実はロイは一周目の世界では、突然変異で妖精の力を持って生まれた人間だった。
その力は強大だったが、周りにバレないように78年の生涯を人間同然の暮らしで終えた。
その生涯でロイは二度だけ妖精の力を使った。
一度はある寒い晩に凍えて死にかけている妖精ムーアクイーンを救った時だった。
そして二度目は自らの死に際を悟った際、もう一度世界をやり直した時だった。
ロイは弟のウォルトがアニメーションの道で成功しなかったことに何らかの要因があると考えていた。
ムーアはロイとともに二周目の世界へと旅立った。
ムーアは力を果たしたロイの代わりに、ウォルトが成功しなかった要因がラッキーというイマジナリー・フレンドにあることを突き止め、ウォルトのフレンドであるマウスも消そうとしていたという。
ロイ「私は確かにウォルトの成功を望んでいた。でも、そのためにマウスを呼び出したのは私だったんだよ。」
ムーア「じゃあ私のやってたことはムダだったの…?」
ロイ「すまなかったね…。それにマウス、ここにおいでのみなさんも。みんなにも色々苦しい思いをさせてしまったかもしれない…。」
ムーア「いえ、私こそごめんなさい…」
ムーアとマウスは和解したが、地球には問題が残っていた。
ロイ「今までもイマジナリー・フレンドのルールのせいで人間が消えたことはあるだろうが、ウォルトほどの有名人となると前例はなかった。ウォルト・ディズニー・カンパニーはウォルトの消滅をはぐらかして発表したが、熱心なファンやオカルトマニアはその消滅に裏があるのではないかと探っているようだ。もしかしたら真実が明るみになり、妖精の存在までバレてしまうかもしれない。みんなには申し訳ないが、この地球の歴史はもう一度リセットしなければならないんだ。」
マウス「三周目に突入するんですね…?」
ロイ「あぁ。」
「それはつまり、私たちがオーナーと積み上げてきた歴史が無かったことになるのかしら…?」
ミセス・アドベンチャーが恐る恐る手を挙げた。
「イマジナリー・フレンドのみんなはどうなるんですか?」
ラッキーも尋ねた。
ロイ「もう一度、妖精たちが地球にやってきた時、1918年から同じ歴史を繰り返すことになる。ただリセットするには妖精の誰かがその力を犠牲にしなければならない。いま地球上にいる妖精はムーア、君だけだ。今度はムーアは君を消そうとはしないはずだ。安心してウォルトを支えてやってくれ。」
マウスは少し考えてから首を横に振った。
「僕はウォルトを一番近くで見てきました。彼はみなさんもご存知のとおり、アニメーションのみならず様々な分野でその才能を発揮しました。彼の活躍を傍で見るのはとても楽しいことで、その力に慣れていたのなら嬉しいことです。でも、僕の知っている彼であればイマジナリー・フレンドの力を借りることなく自力で、いえ仲間たちと力を合わせてあの素晴らしい才能を発揮できていたはずです。だから、私自身は三周目の世界に行く必要はないと考えています。」
静まり返った場内にダックの拍手が響き渡った。
「そうですね。私のオーナーのクラレンスの活躍も彼自身のものです。彼との思い出はかけがえのないものですが、私がいない世界での彼の活躍も見てみたいと思います。」
ミセス「私たちのオーナーもきっと上手くやっていけるはずね」
ミスター「あぁ、そのとおりだな」
ラッキー「ボクのオーナーは…ボクは彼のそばにいることができなくて、一度しか会ったことがないんだけど彼は立派に活躍したし、誇りに思うよ。アブ・アイワークスっていうんだ。それに、マウスの決断だったら応援できるよ。」
マウスの友人たちは彼の提案に賛同し、彼らの友人も賛同、そのまた友人の友人、友人の友人の友人へと賛同の輪は広がった。
マット・ツーの作り上げたIFAの友情の輪のおかげで、彼らの意見は一つにまとまった。
IFAがいつか役に立つというコバルトの言葉のとおりであった。
最終的に彼らは人間たちの能力を信じることにして、三周目はイマジナリー・フレンドの存在しない地球の歴史が始まることになった。
ロイは三周目の地球では、前二周の記憶を持たない普通の人間として生きることを希望した。
マウスはフェアリー・ホロウにいるコバルトと仲間たちにも事情を説明し、彼らに別れを告げた。
こうして、世界はフェイズ3へと突入した。
これからの世界にはイマジナリー・フレンドが存在した証は存在しない。
ウォルトの記憶にマウスも存在しない世界となる。
それでも、「三周目の世界でもフランクリン物語が作られていたら嬉しい」とマウスは感じていた。
<私たちの知るディズニーの歴史へつづく>
登場人物
◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。
◆ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
マウスの存在をロイに話してしまい、ペナルティとして消滅した。
◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
もう一つの世界の記憶を保持したままこちらの世界にやってきた。
◆ダック
マウスの友人である礼儀正しいアヒル。
クラレンス・ナッシュのイマジナリー・フレンド。
◆ラッキー
かつて暗い夜道でマウスを突然襲った黒コートのウサギ。
マウスに対し、並々ならぬ悪意を見せる。
◆コング
IFAのボディガードを務めるゴリラ。オーナーはいない。
◆ミセス・アドベンチャー
ミロット夫人のイマジナリー・フレンド。
冒険好きで勇敢なネズミ。
◆ミスター・アドベンチャー
ミロット氏のイマジナリー・フレンド。
普段はおどおどしているが、やる時は誰よりもやるネズミ。
◆ムーアクイーン
コバルトの同僚の妖精。
マウスによって10年以上封じ込められていた。
◆コバルト・ブルー・フェアリー
マット・ツーにIFAの統括を任せている妖精。
10年に一度だけ地球を訪れる。
※連載コーナー『幻のねずみ』は今回で最終回となります。長らくのご購読ありがとうございました。