ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #50『空想動物記VII マウスの覚醒』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1965年の夏、マウスはもう一つの世界からやってきたウサギのラッキーの訪問を受けていた。

ラッキーがいた世界では、彼こそがウォルトのイマジナリー・フレンドであり、その世界のロイが亡くなる瞬間にこちらの世界へ飛ばされてきたという。

そして、ロイはこの世界でウォルトが消滅したことの真実を知っているはずである。

マウスはディズニーランドが10周年を迎えた当日にロイのもとへと向かった。

「ようやく来たんだね。待ってたよ。」

ロイはマウスに優しく笑いかけて隣に座るように促した。

マウス「あなたは僕のことを知ってるようですね?」
ロイ「うん。君がこの世界に現れたのは私がそう願ったからなんだよ」
マウス「詳しく教えてもらえますか?」
ロイ「この世界はね、私の知る限りでは二周目なんだよ。一周目の世界では、ウォルトはオズワルドを奪われた後に次のキャラクターを生み出そうとするんだけど、結局鳴かず飛ばずでアニメーションの世界を引退してしまうんだ。私は結核の症状が良くならなくてね、ウォルトの活躍を支えながら父さんの事業を引き継いでゼリー工場の経営などをしながら療養していたんだ。私は仕事を引退してウォルトが亡くなり、数年後に私ももう長くないという頃に、病床に妖精が現れたんだ。」
マウス「そこで一体何を…?」
ロイ「ウォルトにもう一度チャンスをあげてほしい、と願ったんだ。ダメもとだったんだけど、妖精はそれを聴き入れてくれた。」
マウス「もう一度チャンスがあればウォルトは成功できるという確信があったんですか?」
ロイ「私には一つ違和感があったんだよ。」

そう言うと、ロイは遠くを眺めた。

ロイ「私の知っているウォルトだったらオズワルドの権利を失った時、新しいキャラクターを生み出して再起できたはずだと思うんだ。でも一周目の世界ではそれができなかった。だからきっと何かしらの事情があったはずだと思ってるんだ。」

マウスは思わずラッキーの顔を思い浮かべた。

マウス「そこであなたはウォルトの実力に賭けて二周目の世界に突入したわけですね?」
ロイ「うん。ただ、彼の実力だけに賭けたわけではないよ。もう一周同じ世界を繰り返すだけでは、ウォルトは同じ道を辿ることになる。だからそのウォルトの発想を妨害した何かを取り除かなければいけなかった。そこで妖精に調査を頼んだんだ。そして念には念を入れ、ウォルトの力になってくれる存在を強く願ったんだ。その結果が、きっと君だ。」

ロイはディズニーランドに向けて両手を広げた。

ロイ「一周目の世界と二周目の世界の違いは2つある。それは私が一周目の記憶を引き継いでいること、そしてもう一つが君の存在だ。このディズニーの世界は君がいたから実現したんだ。君のおかげだ。ありがとう。」
マウス「いや、僕はウォルトをそばから見ていただけで、この功績はウォルトたちのものですよ」

ロイはにっこり笑った後、昨年のことを回想した。

ロイ「イマジナリー・フレンドにはルールがあるそうだね。オーナーである人間はイマジナリー・フレンドの存在を他の人間に明かしてはいけない。そのルールを破ると星となって消えてしまう、と。」
マウス「はい。」
ロイ「『メリー・ポピンズ』のプレミア当日。ウォルトは何者かから手紙を受け取ったんだ。それで君のことが心配になり、私を助手席に乗せて車を走らせたんだ。彼はパニックになって君のことを口走ってしまったよ。事情を知っている私ですらイマジナリー・フレンドのことを話したらウォルトのルール違反となる。彼は星になり、『メリー・ポピンズ』のプレミアには出席することができなかったんだ。」
マウス「もし、そんなルールがなければ、僕がいなければウォルトは…」
ロイ「そんなに自分を責めないで…」

そこまで言うと、ロイはハッとした。

ロイ「私は二周目の世界に入る時、ウォルトを気の毒に思っていた。彼の才能があれば世界はより良くなると思ったんだ。でも、それによって君に余計な葛藤を感じさせてしまったのなら申し訳ない…。」
マウス「いえ、僕が今こうして存在しているのはあなたのおかげです。この世界に生まれて、恐ろしい敵に追われたり、悲しい別れを経験したりもしました。でも、それ以上に得たものは大きかったです。ありがとうございました。」

マウスはロイに深々と頭を下げた。

ロイ「もう行ってしまうのかい?」
マウス「はい。僕にはまだやることがあるので。」
ロイ「そうかい。お気をつけて。」
マウス「ありがとう。一つだけ聞かせてください。一周目の世界であなたに二周目を提案した妖精というのはどんな方でしたか?」
ロイ「背の高い妖精だったね。美しい人間の女性の姿だったよ」
マウス「ありがとうございます。コバルトのことかな。」
ロイ「どこに行くんだい?」
マウス「妖精さんに会いに行きます。ウォルトはあんな終わり方には納得していないはずだから。」
ロイ「居場所は知ってるのかい?」
マウス「あ…。」

妖精が地球にやってこれるのは10年に一度だった。

前回は1962年だったから、次に会いに行くには7年待たなければならない。

私は華麗に光の回廊を開くと、IFAの事務局へと向かった。

コング「どうしたんだい、マウス。何か掴めたかい?」
マウス「コング。確か、マット・ツーはIFAを立ち上げた当初、コバルトと頻繁に連絡を取っていたはずだよね?」
コング「妖精は10年に一度しか地球にやってこられないから、マット・ツーが地球の様子をコバルトに知らせていたんだ」
マウス「どうやって交信をしていたのかわかるかい?」
コング「あぁ。マット・ツーがいなくなってから奥の倉庫に置きっぱなしになってると思うよ」
マウス「すぐに使いたいんだ。誰かに準備を頼めるかな?」
コング「わかった。手配しよう。」

マウスは1928年以来、ずっと謎に包まれていた自分の出自の秘密を知ることができた。

そして今、ウォルトを失った彼には進むべき方角が明確になりつつあった。




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
マウスの存在をロイに話してしまい、ペナルティとして消滅した。

◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
独創性のある弟を財政面で支える良き理解者。

◆コング
IFAのボディガードを務めるゴリラ。オーナーはいない。

◆ラッキー
かつて暗い夜道でマウスを突然襲った黒コートのウサギ。
マウスとは違う、もう一つの世界からやってきた。


史実への招待

ウォルトの創作活動を陰で支え続けた人物がいます。

ウォルトの3番目の兄であるロイ・O・ディズニーです。

ロイは銀行での仕事を退職した後、海軍に入隊していましたが結核のため除隊となりました。

療養中の1923年、ウォルトの誘いでハリウッドへ行きディズニー・ブラザーズ・スタジオを設立しました。

ウォルトはそれまでも自分の会社を興していたのですが、財政面が安定せず事業は自然消滅となっていました。

ディズニー社ではロイが財政基盤の管理をしっかりしていたことで、ウォルトは創作に専念することができました。

とは言え、ウォルトの突飛なアイディアを実現するためにロイの奔走もかなりの苦労だったようです。

1925年にエドナ・フランシスと結婚した。1930年には息子のロイ・E・ディズニーが誕生している。

2008年には開園25周年を記念し、東京ディズニーランドにロイとミニーの像が設置されました。

ウォルト・ディズニー・ワールド鉄道や香港ディズニーランド鉄道にはロイの名前が付けられた機関車があります。

また、カリフォルニア芸術大学ハーブ・アルパート音楽院にはロイ・O・ディズニー・コンサートホールという名前が付けられているそうです。