ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #28『空想動物記VI コバルトの帰還 特別篇』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


マウスがIFAの事務局に戻ってくると、マット・ツーは呆れた顔を作って彼を迎え入れた。

マット・ツー「マウスさん。まったく、どこへ行ってたんですか?」
マウス「すみません。どうしても確認したいことがありまして。」
マット・ツー「あなたに会わせたい人がいたんですが、彼女はもう帰られてしまいました。」
マウス「申し訳ない…。また別の機会にお願いできますか?」
マット・ツー「次は十年後でしょうね」
マウス「えっ」

マット・ツーはマウスにコバルト・ブルー・フェアリーという妖精に会わせたかったと話した。

彼女はイマジナリー・フレンドを統括する妖精で、IFAの創始者であり、十年に一度地球に降りてきてIFAの活動をチェックして帰っていくと説明し、彼女がマウスを消そうとしていることについては黙っていることにした。

本来、イマジナリー・フレンドはこの世に生まれた瞬間、ルールの説明のために現れる彼女の幻と対面するのだというが、マウスは会ったことがなかった。

「マウスさん、あなたが特殊な生まれ方をしたイマジナリー・フレンドであることは私でも分かります。もしかしたら、本物のイマジナリー・フレンドではないかもしれない。なのであなたがショックを受けないように夢はないか確認した上で、フェアリーのもとへと連れてきたのです。」
「そうでしたか……」
「しかし、間に合わなかったものは仕方ありません。また十年後、機会をうかがいましょう」
「はい…」

マット・ツーはマウスに、本来妖精から受けるはずだったイマジナリー・フレンドのルールについて説明した。

イマジナリー・フレンドは動物によってその身体のサイズが異なるため、最初に身体を小さくして姿を隠す術を教わるのだという。

「いいですか、片手で尻尾を掴んでください。そして、もう一方の手で指パッチンをすると、手が六色に光って体積が半分になります。もう一回やるとさらに最初の100分の1サイズになります。さらにもう一回やると元のサイズに戻ります。」

教わったとおりに指を鳴らすと、私でもすぐに身体を小さくする方法を実践することができた。

「マウスさんは元々ネズミですから知らなくても困らないとは思いますが、キリンとか象とかだったら死活問題になりますな」とマット・ツーは笑った。

マット・ツー「どちらかと言うとマウスさんに覚えていただきたいのは、瞬間移動の術なんです。私たちは光の回廊というものを通って、世界中のあちこちに瞬間移動することができるんです。」
マウス「え、そんな便利なことが?」
マット・ツー「はい。とはいっても、ワープ先に指定できるズームポイントはいくつか決まってるので、どこでも行けるわけではないんですよ。IFAにはズームポイントの開拓を専門にしているチームもいますね。むしろ、今まで光の回廊を使わずによくやってこられましたね」

光の回廊の使い方はなかなかコツが掴めず、その場ですぐに使いこなすことはできなかった。

「練習していればじきに慣れますよ」

マット・ツーは楽観的に話した。

「他に把握しておくべきルールはありますか?」と私は訊ねた。

「えぇ、あります」

マット・ツーは真剣な顔つきになった。

「とても大事なことです」

彼が言うには、妖精の最初の説明ではオーナーとなる人間がある約束をしなければならないとのことだった。

その約束とは、妖精やイマジナリー・フレンドの存在を他の人間に口外しないこと。

「口外するとどうなるんですか?」
「その人間はお星様になってしまうでしょう」
「それは過酷ですね…」
「あちらの世界では10年に一度、一番綺麗なお星様を競うエヴァンジェリーン・コンテストなるものが開かれて大変盛り上がるようですよ」
「そうですか」

そこまで聞くと、マウスは妙な胸騒ぎがした。

ウォルトはその説明を受けていないから、そのようなルールは知らないはずだ。

もしウォルトがマウスの存在を他の人間に口外すれば、彼も私も星になって消えてしまう。



翌日、マウスはウォルトに仕事場へと走った。

「やぁ、ウォルト」
「こんにちは、マウス。そんなに汗だくでどうしたんだい?」
「君は私のことをほかのだれかにはなそうとしたことはないかい?」
「うーん、ないな」
「どうしてだい?」

ウォルトはふふっと笑いながら答えた。

「ネズミと話せるなんて言っても誰も信じないだろう。それに君と話せる能力というのは神様がくれたプレゼントかもしれないからね」

彼なら問題なく信用できそうだ、とマウスは胸を撫で下ろした。



一方、ピクシー・ホロウへと戻ったコバルトは他の妖精たちに地球のイマジナリー・フレンドたちの状況を報告していたが、マウスを消さなかったことについてはお茶を濁した。

他の妖精たちはそれぞれの担当について忙しかったのであまり真剣には聞いていなかったが、ムーアクイーンだけは彼女の報告について怪訝そうな表情を浮かべていた。

ムーアは地球をより良くするチームに所属する他の妖精たちとは違い、生まれつきのエリートだった。


報告会が解散した後、ムーアはコバルトに「あの突然変異のネズミは星にしたのよね?」と念押しした。

それから「ちゃんとやってもらわないと、私の任務のほうに支障が出るんだからね。」と厳しい口調でダメ押しした。 



<つづく>


登場人物

◆マウス
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

◆マット・ツー
シルクハットをかぶった紳士風の雑種犬。
マウスにイマジナリー・フレンドについて教える。

◆コバルト・ブルー・フェアリー
マット・ツーにIFAの統括を任せている妖精。
イマジナリー・フレンドを管理しており、10年に一度だけ地球を訪れる。

◆ムーアクイーン
コバルトの同僚の妖精。
強大な魔力を持ち、なぜかマウスを消すことに執着する。


史実への招待

1955年の『わんわん物語』では大きな野生のネズミが名も無き悪役として登場します。

本作のネズミは「赤ちゃんを襲う危険な生き物」として忌み嫌われる対象となっています。

1970年の『おしゃれキャット』では猫と仲の良いネズミという新境地をロクフォールが開拓します。

ネズミの大好きなチーズの名前がそのまま付いているネズミのキャラクターというのも長編アニメとしては珍しい試みでした。

1977年の『ビアンカの大冒険』と1986年の『オリビアちゃんの大冒険』では、ミッキーのインパクトに押されて(?)なかなか実現しなかった新たなネズミの主人公が誕生しました。

前者はネズミが人間の子供を助けて悪い大人に挑む物語ですが、後者はネズミとネズミの戦いが繰り広げられ、悪役はやはりドブネズミでした。

ドブネズミといえば、『アラジン』の悪役ジャファーが貧しく目障りなアラジンの蔑称として用いています。