※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。
1942年。
IFAの事務局で私はマット・ツーとコバルトからここまでの話を聞いた。(#23~28)
私は自分が彼女らに星にされそうになっていたことに驚いたが、踏みとどまってくれていたことを知ると一種の安心を覚えた。
私はマット・ツーとコバルトの謝罪を受け入れ、これから自分はどうなるのか、そしてムーアクイーンとは何者なのかを尋ねた。
地球を担当する妖精たちはいずれも落ちこぼれたちだったが、ムーアクイーンだけはこのメンバーに含まれるのが不自然なほど優秀な能力を持つ妖精であった。
さすがに落ちこぼれの6人だけでは間が持たないという妖精の先生たちの意向なのだろうか。
ムーアは他の妖精たちから頼られる存在ではあったが、その一方で仲間達が知らない謎の任務を任されているのだという。
「私が存在することで支障の出る任務ってどんなものなのでしょう?」と私が訊ねると、コバルトは考え込み始めた。
コバルト「そうですね…。彼女は自分が予期できない不確定なものを恐れる傾向があります。突然変異のイマジナリー・フレンドを恐れるのも納得できますね。」
マット・ツー「私たちはあなたが突然変異で生まれたことに驚きましたが、より良い世界のために協力してくださるのなら手を組むべきだと考えを改めました。でもムーアは無条件にあなたの存在を否定しようとしています。」
ムーアはマウスを消すどころか、マウスに味方しようとする者についても危害を与えかねないという。
コバルトが地球を去ってから数日経つと、マット・ツーは安全のためにチャップリンのもとを離れて姿をくらますことにしたという。
当初はマット・ツーのオーナーを断っていたチャップリンも20年近く一緒にいるうちに彼に愛着を持ったようで、彼の申し出に対しては名残惜しそうにしてくれていたという。
マウス「マットさんにも迷惑をかけてしまって申し訳ない…」
マット・ツー「お気になさらないでください。私が決めたことですから。マウスさんもディズニーさんのもとを離れて、IFAの事務局を本拠地にしませんか?」
マット・ツーがチャップリンのためを思ってしていることであれば、自分も同じようにするべきかもしれない。
マウス「はい、そうですね。ウォルトに話してきます…」
私は「とある事情により、しばらくウォルトのもとを離れて暮らすことになった」と、端的にウォルトに伝えた。
ウォルトもこちらの事情には深入りせずに残念がってくれた。
ただ、ウォルトは「事情はわからないけども、もし私のことを思っての決断だとしたら気にしなくていい。君が正しいと信じたとおりにしてほしい」と一言付け加えた。
私はウォルトが気を遣ってくれる友人であることに感謝した。
その晩、ウォルトと過ごしてきた日々を回想した。
ウォルトとの日常はとても刺激のあるもので、楽しい毎日であった。
初めて列車の中で出会った時のこと。
ミッキーマウスを創り出し、『蒸気船ウィリー』で大逆転をしたこと。
ウォルトとリリーの結婚式で人知れず涙したこと。
『白雪姫』でまたもや素晴らしい作品を実現したこと。
そして、そのキャラクターたちもまたいずれも魅力的だった。
ミッキーはいつも愉快に、仲間を大事にし、時にミニーのために勇敢に戦った。
白雪姫には仲間たちに慕われる魅力をもって、人生を切り開いた。
ピノキオは誘惑に負け何度も楽な道に流れたが、最後には勇気を出して家族のために戦った。
ダンボやバンビは親と離れて苦境に置かれても、強く生きた。
ドナルドは……なんか騒いでるだけだったかな。
…でも、私にも彼らのように頼れる仲間がいる。
ウォルトと仲間たちが創ってきたディズニーの仲間たちならここで決して逃げたりはしない。
「逃げる」という選択をしてしまっては、ウォルト・ディズニーのパートナーの名が廃る。
翌日、私はマット・ツーに連絡を入れた。
マット・ツーは「そうでしたか、わかりました。マウスさんの決断であればもちろん尊重しますよ。」と答えた。
彼の表情はどこか満足げだった。
この「逃げない」という私の姿勢を宣戦布告と捉え、ムーアは正式に私の排除を宣言したという。
ルビー、エメラルド、サファイアは相変わらず「りょうかーい」「はいはいー」「ファイト~!」といった感じでさほど関心を示さなかった。
<つづく>
登場人物
◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。
◆ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。
◆マット・ツー
シルクハットをかぶった紳士風の雑種犬。
マウスにイマジナリー・フレンドについて教える。
◆コバルト・ブルー・フェアリー
マット・ツーにIFAの統括を任せている妖精。
イマジナリー・フレンドを管理しており、10年に一度だけ地球を訪れる。
◆ムーアクイーン
コバルトの同僚の妖精。
強大な魔力を持ち、なぜかマウスを消すことに執着している。
◆ルビー
フェアリー・ホロウの妖精。
赤い服がトレードマークで、人々に美しさを与える。
◆サファイア
フェアリー・ホロウの妖精。
青い服がトレードマークで、人々に希望の光を与える。
◆エメラルド
フェアリー・ホロウの妖精。
緑の服がトレードマークで、人々に素敵な歌を与える。
史実への招待
ウォルト・ディズニーの生前に生み出されたキャラクターたちが活躍していたアトラクションがありました。
1983年、東京ディズニーランドにオープンした『ミッキーマウス・レビュー』では、ミッキーやミニーのほか、様々なディズニー映画のキャラクターたちによるレビューショーを楽しむことができました。
協力してピストンとリードを担当するチューバのダンボとティモシー。
しっぽをフルートのように扱う『ジャングル・ブック』のカー。
三人で仲良くバスクラリネットを担当する『ふしぎの国のアリス』のお茶会トリオなどなど…。
他にも映画のワンシーンを再現するかのように、『白雪姫』『シンデレラ』『三匹の子ぶた』などの楽曲が披露されていきます。
このアトラクションは元々1971年にマジック・キングダムでオープンしたものが1980年にクローズして東京に渡ってきたものです。
そのため、登場キャラクターはいずれもウォルトの生前に生み出された面々となっているのです。
東京版の同アトラクションは2009年にクローズし、『ミッキーのフィルハーマジック』となっていますが、古き良き時代のアトラクションは今も多くの人の記憶に残っています。