ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #26『空想動物記IV 新たなる仲間 特別篇』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1932年の某日、マット・ツーの調査は十分と判断され、ついに突然変異のイマジナリー・フレンドであるマウスにとどめを刺すときがやってきた。

マット・ツーがマウスに接触して彼をIFAへと案内し、コバルトが10年に一度地球に上陸できるチャンスを利用してマウスを星送りにしてやる作戦である。

マット・ツーは善良な訪問者を装ってマウスのもとを訪れた。

マット・ツー「夜分遅くにすみません。あなたがウォルト・ディズニーさんの使いのマウスさん?」
マウス「使い、ですって?」
マット・ツー「えぇ、イマジナリー・フレンドのことです。」

マウスは自分以外のイマジナリー・フレンドに会ったことがないらしく、自分が何者かもよくわかっていないようだ。

マット・ツーは「新入りのようですな」と愛想笑いをした。

マウスはマット・ツーを広々とした犬小屋へと通した。

マット・ツー「はじめまして、マウスさん。私の名前はマット・ツーと申します。」
マウス「はじめまして、マウスです。マット……ツーさんなんですね?」

立派な犬小屋に入ると、マット・ツーは腰掛けながら「さて、何から話せばいいもんですかな」と言った。

マウスはイマジナリー・フレンドとは何か、なぜネズミなのに人と話せるのか、そもそも私はネズミなのか、といったことを質問攻めにしてきた。

マット・ツーは、世の中には人間のように話し、人間のようなスピードで歳を取り、人間のように振る舞う特別な力を持った動物たちがごく少数存在すると話した。

彼らはある人間の強い想いを叶えるためにこの世に誕生し、その人間とのみ会話ができることから、その人間(オーナー)にとってのイマジナリー・フレンドという呼び方もするという。

イマジナリー・フレンドはその人間とコミュニケーションを取り、夢に向かって努力する姿を人知れずサポートする役割を担っている。

マット・ツーの場合は、チャールズという人間の強い想いによってこの世をさまよっていたところ妖精に姿を与えられ、彼のイマジナリー・フレンドとして彼をサポートしてきたと説明した。

マウス「そうなんですね。じゃあ私はウォルトのイマジナリー・フレンドってことでしょうか。確かに彼のアニメーションに対する情熱を微力ながらサポートしていると思いますから。」
マット・ツー「えぇ。その可能性は高いと思いますけど…」

マット・ツーの言葉はどこか歯切れが悪く聞こえた。

マウス「どうかしましたか?」
マット・ツー「いや、これはどこまで話していいものか…」

マット・ツーの役目はマウスを始末するためにコバルトのもとへ連れて行くことだったが、マット・ツーはあの『蒸気船ウィリー』を作ったウォルト・ディズニーのイマジナリー・フレンドであるマウスを消すことが果たして地球の利益になるのか、と疑問を感じていた。

マット・ツー「マウスさん。あなたには夢はありますか?」
マウス「夢、ですか?考えたことはありませんね。漠然とウォルトの夢を応援したいとは思いますが、それは私の夢と言えるかは疑問ですし…」
マット・ツー「元来、我々イマジナリー・フレンドはパートナーの夢を応援するのが役目です。例えばですよ?あなたがもしディズニーさんを助けるその役割にふさわしくないと言われたら耐えられますか?」

マット・ツーはコバルトに従うべきか、マウスを守るべきか少し揺れていた。

マウス「大丈夫です。夢というほど大層なものはありません」
マット・ツー「よろしい。」

マット・ツーは大きく頷いて立ち上がった。

マット・ツー「マウスさん、あなたをご案内したい場所があります」

マット・ツーは意を決して、IFAにマウスを連れて行くことにした。

もしかしたら、コバルトなら自分の考えを理解してくれるかもしれないと思ったからである。

ハリウッドに到着すると、マット・ツーはマウスを連れて広々とした通りから細い路地裏へと入っていった。

路地裏の閑散とした廃墟には小さな動物たちが4匹いた。

人間のようにペンを握って何か書き物をしている猫もいれば、腕立て伏せをしている小さなゴリラなど個性豊かな面々だ。

マウス「ここは?」
マット・ツー「ここはIFA。イマジナリー・フレンド協会の事務局です。彼らはパートナーを失ったイマジナリー・フレンドです。ここはイマジナリー・フレンドたちが情報共有をするコミュニティでしてね、何か困ったことがあればここで相談するんです。あちらの猫さんは電報の係で、他のイマジナリー・フレンドからの手紙を受け取って返事を書く係です。」
マウス「ということは、手紙を届けるハトのイマジナリー・フレンドもいそうですね」
マット・ツー「惜しい。それはカラスの仕事です。」
マウス「マットさん、私たちはどのくらい生きるんでしょうか?」
マット・ツー「IFAのデータによると、長くてザッと50年ぐらいでしょうか。ネズミだから寿命が短いとか、象だから長いとかそういうことはありませんよ。ご心配なさらず。」
「私たちイマジナリー・フレンドはパートナーが死を迎えた時、その第一の役割を終えます。パートナーの死を哀しみ、その場で星になって役目を終える方もいますし、残りの寿命の限り他のイマジナリー・フレンドたちの力になりたいと願って、IFAに加入する方もいますね」

マウスは新たな知識を一つ一つ噛み締めている。




<つづく>


登場人物

◆マウス
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

◆マット・ツー
シルクハットをかぶった紳士風の雑種犬。
妖精たちからマウスを消すための調査を依頼されていた。

◆受付の猫
IFAの受付を務める気だるい雌の猫。オーナーはいない。

◆コング
IFAのボディガードを務めるゴリラ。オーナーはいない。

◆コバルト・ブルー・フェアリー
フェアリー・ホロウの妖精の学校の卒業生。
地球をより良くするための実習のメンバー。


史実への招待

ディズニーを代表するネズミといえばミッキーです。

ミッキーの前身となる『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット』のシリーズにもミッキーによく似た雰囲気のネズミが登場しており、ミッキーに何らかの影響を与えたと予想できます。

シリー・シンフォニーでは『空飛ぶネズミ』という作品があり、空を飛びたいネズミがコウモリの翼をもらい、ネズミからもコウモリからも仲間はずれにされてしまいます。

同じくシリー・シンフォニーの一編『田舎のねずみ』では、町に住むいとこのモンティを訪ねてきた田舎のアブナーが都会の喧噪や危険に遭遇して田舎に帰っていきます。

この二話はいずれも「やっぱり今までどおりが一番」といった普遍的なテーマを扱っており、擬人化されたネズミの物語を楽しむことができるアニメーションとなっています。

一方、『ハーメルンの笛吹き』では、ハーメルンをネズミの大群が襲い、住民から嫌われる役回りとなりました。

アニメでは可愛らしいネズミも現実に野生の個体が現れた場合は本作のような扱いを受けることでしょう。

<つづく>