ディズニー データベース 別館

「ディズニー データベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)の別館です。日本の誰か一人にでも響けばOKな記事を書いていきます。

【連載】幻のねずみ #25『空想動物記III ルールの復習』

f:id:disneydb23:20210619081301j:plain

※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1921年

チャップリンに認められ、イマジナリー・フレンド第一号となったマット・ツーは充実した毎日を過ごしていた。

さて、先日チャップリンにマット・ツーを託すために地球に直接上陸したコバルトだったが、ペナルティでかなりのダメージを負ってしまった。

これに懲りたコバルトは、地球上の視察をマット・ツーに任せていた。

すっかり地球部門のイマジナリー・フレンドの担当となったコバルトとマット・ツーは新しいイマジナリー・フレンドを増やすための方法を考えた。

マット・ツーはチャップリンのサポートをする傍ら、彼のハリウッドでの友人などを調査していた。

コバルトはイマジナリー・フレンドをこの世に誕生させる際のルールを策定した。

コバルトが地球に上陸できるのは約10年に一度であるため、イマジナリー・フレンドのオーナー候補の前にマーガレットが作り出したコバルトの幻が現れてイマジナリー・フレンドのルールを説明する。

そのルールとはチャップリンの時と同様、「イマジナリー・フレンドの存在は口外すればその人間は星になってしまう。もし、今ここでイマジナリー・フレンドを拒否すれば、コバルトの幻が現れた記憶を抹消し、なかったことにする。」というものである。

マット・ツーはハリウッドで活躍する俳優やスタッフなどを中心にイマジナリー・フレンドのオーナー候補を見つけてはコバルトに連絡し、新しいイマジナリー・フレンドを増やしていった。

マット・ツーの誕生から約7年の間に、イマジナリー・フレンドの数は100を超え、中にはオーナーと死別するイマジナリー・フレンドも残っていた。

オーナーを失ってなお寿命の残るイマジナリー・フレンドは本人の希望次第では、コバルトやマット・ツーを補佐する仕事が与えられた。

それがイマジナリー・フレンドたちによる組織『IFA』の誕生であった。

コバルトは「この組織はきっといつか、何かの役に立つよ」と話した。

IFAの監督はコバルトに任され、実質的な指揮権を持つのは地球に留まることのできるマット・ツーとなった。



妖精たちは基本的にフェアリー・ホロウから遠隔で地球を調査していた。

コバルトが地球上で活動する喋る動物のイマジナリー・フレンドを統括し、他の妖精たちはそれぞれの担当分野についての調査をイマジナリー・フレンドに依頼することもあった。

オコナーは生き物の生命について勉強しており、荒廃した土地での動物や植物の暮らしの改善を目指したり、コバルトとともにイマジナリー・フレンドの活動向上を目指していた。

マーガレットは口数は少ないが、様々な発明でメンバーを援助していた。

ルビー、エメラルド、サファイアの三人は妖精の仕事よりも今を楽しむタイプで、地球で流行りの歌やファッションを研究して盛り上がっては、他のメンバーの足手まといになることもあった。

ルビーは美、エメラルドは歌声、サファイアは希望の光を専攻している。

ムーアクイーンは強大な力を持ち、とある任務を請け負っていた。



1928年のある日、突然強い風が吹き荒れ、妖精たちが感知しないところでイマジナリー・フレンドが誕生した。

他の妖精たちはイマジナリー・フレンドの管理をコバルトにまかせていたのでそこまで気にしていなかったが、あまりにコバルトが騒いでいたので急遽会議が開かれた。

「地球を良くするためにイマジナリー・フレンドを導入したが、我々の管理外でイマジナリー・フレンドが勝手に誕生するのは望ましくない」という意見にまとまり、コバルトは突然変異で発生した謎のイマジナリー・フレンドを始末する係に任命された。

もちろんコバルトは地球を捜索できないため、マット・ツーがその係を引き受けることとなった。

マット・ツーはIFAに所属していないイマジナリー・フレンドの存在を血眼になって探したが、その成果は得られなかった。



マット・ツーがその任務に精を出す間、チャップリンのサポートはおろそかとなっていた。

当時のチャップリンは『キッド』で天使を演じたリタ・グレイと再婚したが、彼女の代役と恋に落ちるなどして家庭はすっかり崩壊寸前となっていた。

1928年の公開を目指す『サーカス』も様々な災難に見舞われ、離婚問題やセットの火災によって完成は大幅に遅れた。

チャップリンには新たな時代の波が訪れていた。

『サーカス』の完成直前、『ジャズ・シンガー』という映画が公開された。

ジャズ・シンガー』は世界初のトーキーのシーンを含む映画として、チャップリンサイレント映画の時代を築いてきた者にとって新たな脅威であった。

マット・ツーは突然変異のイマジナリー・フレンドを探すことに疲れ、とある映画館に入った。

『蒸気船ウィリー』というウォルト・ディズニーの、世界初のトーキーアニメーションだった。

ミッキーマウスというネズミのキャラクターが船に積まれた道具や動物を駆使して陽気に演奏しながら踊り回る様子に、マット・ツーは思わず笑みがこぼれた。

マット・ツーとしてはチャップリンの持ち味が最も光るのはサイレントだと信じていたのでトーキーの台頭には少しむず痒いところもあったが、それだけミッキーは魅力的に見えたのである。

マット・ツーは腰を上げて仕事に戻ろうとしたが、やたら熱心に『蒸気船ウィリー』に注目するネズミの姿を見過ごさなかった。

そのネズミの動きは、いわゆる普通の動物のネズミとは全く異なり、人間らしい挙動が目立った。

そして、そのネズミはイマジナリー・フレンドの名簿の中には乗っておらず、IFAにも所属していない。

「ようやく見つけた…!」





<つづく>


登場人物

◆コバルト・ブルー・フェアリー
フェアリー・ホロウの妖精の学校の卒業生。
地球をより良くするための実習のメンバー。

◆マット・ツー
地球をより良くする動物「イマジナリー・フレンド」第一号。
オーナーはチャップリン

◆ルビー
フェアリー・ホロウの妖精。
赤い服がトレードマークで、人々に美しさを与える。

サファイア
フェアリー・ホロウの妖精。
青い服がトレードマークで、人々に希望の光を与える。

◆エメラルド
フェアリー・ホロウの妖精。
緑の服がトレードマークで、人々に素敵な歌を与える。

◆オコナー
フェアリー・ホロウの妖精。
動物や植物の生命についてのエキスパート。

◆マーガレット
フェアリー・ホロウの妖精。
赤ちゃんの笑い声に反応する、ものづくりの妖精。

◆ムーアクイーン
フェアリー・ホロウの妖精。
優秀な魔力を持ち、他の妖精たちから一目置かれている

◆リタ・グレイ
『キッド』で天使役を演じた子役。
後にチャップリンと婚姻関係になるが…。

チャールズ・チャップリン
アメリカを代表する喜劇役者「チャーリー」。
シルクハットをかぶった放浪紳士のキャラクターがトレードマーク。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆マウス
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。



史実への招待

ミッキーが誕生した1928年に公開されたチャップリン映画『サーカス』は制作中の度重なる災難や、チャップリン個人の私生活のトラブルが重なったこともあって混迷を極めた作品となりました。

近代サーカスはイギリス発祥とされていますが、アメリカにも娯楽として広まっていました。

『サーカス』ではチャップリンが自ら綱渡りをスタント無しで演じています。

ミッキーマウスのがんばれサーカス』という作品では、ミッキーもドナルドと一緒に子供たちを喜ばせようとサーカスを始めました。

出し物は好評を博しますが、次第にいたずら好きな子供の策略でドナルドがいつものように癇癪を起こし始めてしまいます。

『ダンボ』ではサーカスが舞台となっており、ダンボの職場としてWDPサーカスが登場します。

実写版では人間のサーカス団員たちの人間関係もよりブラッシュアップして描かれています。

『ボンゴ』ではボンゴがサーカスを自由のない縛られた空間と認識しており、そこからの逃亡を図ります。

楽しいエンターテイメントとして描かれるサーカスですが、その裏の悲哀や窮屈さを題材とする作品もあるのです。