ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #12『わんちゃん物語』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


野生のネズミの寿命は二年と聞く。

しかし、私がウォルトと出会ってから既に二年経っていたが、身体は衰えを知らず、日に日に活発になっていくようであった。

イマジナリー・フレンドは人間のように長生きすることがわかったので、私が寿命のことを気にしたのはこれが最後でもあった。



私が初めてIFAの事務局を訪れてから一週間経った後、パップが遊びに来ていた。

パップは先日、私が二年前に何者かに襲われた際に助けてくれた命の恩人の犬である。

彼は一見普通の犬っぽく見えるのだが、例のイマジナリー・フレンドの話を聞いて以来、どこか人間っぽい動きをするように見えてきたので、彼に思い切って聞いてみることにしたのである。

マウス「ねぇ、パップ。君は誰かのイマジナリー・フレンドなのかい?」
パップ「あぁ、そうだよ。オイラはイマジナリー・フレンドさ」
マウス「君のパートナーは何をしている人なんだい?」
パップ「何をしてるんだろうねぇ」
マウス「じゃあ、その人の名前は?」
パップ「なんていったっけなぁ…」

パップはとぼけた口調で答えた。

パップは素直で正直すぎるところがあるので、彼がパートナーの正体を隠そうとしているのではないことは容易にわかった。

「まぁ、そのうち思い出すよ」

パップはそう言って振り返ると、水の入った皿をうっかり蹴飛ばしてしまった。

「ありゃ、またやっちまった」

パップはパートナー以外の人間であるウォルトの前で言葉を話すことはなかったが、ウォルトは愉快なパップの様子を見て大層気に入った様子だった。

ウォルト「君のお友達のワンちゃんは実に面白いね」
マウス「パップかい?」
ウォルト「この前、彼をモデルにしてプルートを作ったけどね。他に良いキャラクターを思いついたんだよ。『ミッキー一座』で観客席でピーナッツ袋を持って馬鹿笑いしてた犬がいるだろう?」
マウス「周りのお客さんに迷惑がられてたアイツかい?」
ウォルト「彼をもっとフィーチャーしていこうと思うんだ」

その犬のキャラクターはディピー・ダウグと呼ばれていたが、やがてグーフィーという名前となった。

グーフィーのキャラクターは後に洗練されていき、若手アニメーターであるアート・バビットの輝かしい功績となった。



パップ「ところで先週くらいからウォルトさんが作ってくれたボクの犬小屋に杖みたいなのが置いてあるんだけど…」
マウス「杖?」

そういえば、先週マット・ツーが訪ねてきた時にパップの犬小屋に招いた。

ところで彼は何のために私に会いに来たのだろうか。

思えばこちらの疑問をぶつけるばかりで向こうの話は何も聞かなかった気がする。

私はIFAの事務局へ向かうため、教わったばかりの光の回廊を開こうとしたが上手くいかなかった。

「パップ、光の回廊を開けるかい?」
「それは何だい?」

私はマット・ツーの杖を持って自力で事務局へと向かった。



事務局に到着すると、受付の猫がマット・ツーからの手紙を預かってくれていた。

マット・ツーからの手紙には、彼のパートナーが出資したユナイテッド・アーティスツという配給会社がディズニーと手を組みたがっているからよろしくとのことだった。

私は猫にマット・ツーが忘れていった杖を預けて帰宅した。

そしてコロンビアとの契約に不満を感じていたウォルトにユナイテッド・アーティスツの話をすると、ウォルトは思わず読んでいた新聞から顔を上げた。

ユナイテッド・アーティスツ?」



しばらくしてウォルトにユナイテッド・アーティスツの社長から本当に連絡が来た。

契約によって『クマとハチ』からユナイテッド・アーティスツが配給を担当することになった。

ウォルトはユナイテッド・アーティスツの共同出資者であるチャップリンと会うこともできた。

憧れのチャップリンと対面したウォルトは少年のような眼をしていた。

マット・ツーは遠くから私に向けて親指を立てて微笑んでいた。



二人の歴史的な出会いの後、私はマット・ツーに会いに行った。

マット・ツーは「私とマウスさんが手を組んだおかげで、チャーリーとディズニーさんが円滑にビジネスを進めることができたのです。イマジナリー・フレンドの強みはこういうところにあるのです。これからもアメリカのエンターテイメントの向上のため協力していきましょう!」と祝杯を上げた。

私もにっこりと応じたが、帰り道、こんな疑問を抱いた。

「別に私とマット・ツーがいなくても、普通にウォルトとチャーリーは手を組んでいたのではないだろうか。」

私はイマジナリー・フレンドをなんとなく理解しつつも、なんとなくよくわからないという状態が続いていた。 




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆パップ
マウスの友人である犬のイマジナリー・フレンド。
オーナーは不明。グーフィーのモデルとなった。

◆アート・バビット
ディズニー・スタジオのアニメーター。
グーフィーの生みの親。

◆マット・ツー
シルクハットをかぶった紳士風の雑種犬。
マウスにイマジナリー・フレンドについて教える。

チャールズ・チャップリン
ウォルトのあこがれの喜劇王
ユナイテッド・アーティスツ創設メンバー。


史実への招待

1930年、『ミッキーの陽気な囚人』という留置場を描いたアニメーションで、ブラッドハウンドが登場しました。

彼は後にプルートとして知られる存在となるのですが、当時彼にはまだ名前がなく、その後最初についた名前はローヴァーでした。

そして驚くべきことに、最初に彼の飼い主として登場したのはミッキーではなくミニーなのでした。

その後、1930年に冥王星が初めて観測されたことににちなみ、プルートと名付けられました。

プルートは後に短編アニメシリーズで主演を務めることになり、は弟のキッド・ブラザー(K.B.)や、妻のフィフィ、そして子供たちも登場しています。

短編後期ではダイナというダックスフントにガールフレンドは変更されましたが、初期の短編をオマージュした『ミッキーマウス!』やグッズ展開ではフィフィが姿を現すことも多く、五分といった印象も受けます。

ミッキーにピートがいるように、プルートにもブッチという天敵のブルドッグが登場します。

表情豊かなプルートは台詞がほとんど無くとも、ディズニーのメインキャストとして親しまれています。