ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #48『あるウサギのしあわせ』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。



1965年の夏、私はIFAの事務局へと向かい、黒コートの動物といよいよ対面することとなった。

厳重に檻に閉じ込められた彼と顔を合わせるのは実質初めてであった。

コングがそいつのフードを外すと、中から出てきたのは全く覚えのないウサギの顔だった。

知っている顔が出てくると身構えていた私はある意味拍子抜けしたが、知らないはずの顔にどこか親近感も覚えていた。

マウス「あの……」
ウサギ「ラッキー。それがボクの名前さ」
マウス「そうか、ラッキー。君とは、えーっと、30年以上も前に君が夜道で突然襲いかかってきたのが最初だと思ってるんだけど間違いないかな?」
ラッキー「君からしたらそうだろうね」

ラッキーは不満げに答えた。

マウス「確かにそれだけで君の事情も確認せずにあの黒い箱の中に20年も閉じ込めたのはやり過ぎだったと思うし申し訳ない。でもあれは事務局のスタッフの判断で…」
ラッキー「それだけ?」
マウス「え?」
ラッキー「それだけなの…?」

ラッキーは私に失望したようだった。

「やっぱり君はそこまで深く考えていなかったんだ。じゃあはっきり教えてやる。ウォルトのイマジナリー・フレンドは君じゃないんだ!」

同席したダックとコングはぎょっとした。

ダックは「な、何を言い出すんですか!マウス、騙されてはいけませんよ。」と私を庇ったが、続きが気になった私はそれを制止した。

ラッキー「本当だったらウォルトと一緒にいるのはボクのはずだったんだ。でも君が現れたせいで、ボクはお役御免さ。君に悪気があったかどうかは知らない。ただそれが事実なんだよ。」

ウサギの代わりにネズミが現れたという流れには心当たりがあった。

マウス「君はもしかして、オズワルドだね?」
ラッキー「ふん、それは知ってるんだな」

マウス「でも待ってくれよ、ラッキー。僕がウォルトの前に現れた時には既にオズワルドの権利は奪われていたじゃないか。それは僕のせいじゃないはずだよ」
ラッキー「この世界に君が現れたことが問題なんだ。前の世界には君はいなかった」
マウス「前の世界だって…?!ウォルトのいた世界がここ以外にもあるっていうのかい?」
ラッキー「そうだよ。ボクが元いた世界ではボクがウォルトの相棒だったんだ。オズワルドの権利は奪われたけど、あの後ウォルトはボクと協力して一念発起して復活を遂げるはずだったんだ。でも…」
マウス「あちらの世界では、ウォルトは映画界で活躍できなかったんだね…?」



ラッキーが元々いた世界でも、1928年にウォルトはオズワルドの権利を失ったという。

ハリウッドからの帰り道の電車の中で、ラッキーはウォルトの前に突如として現れた。

ラッキーはウォルトを励まして新しいウサギのキャラクターの考案を薦めたが、ウォルトに「ウサギのキャラクターはもう使えない。新しい動物のキャラクターを作らなきゃ」と言われたことにショックを受けた。

ラッキーは意地でもウサギのキャラクターを生み出してウォルトに復活を遂げてほしかった。

ウォルトはラッキーの親切心に応えようとウサギのキャラクターを作ろうとしたが結局大成せず、そのままディズニーはスタジオを畳むことになったという。

ラッキーは過度にウサギの新キャラクターを要求した自分の姿勢を反省し、もしもう一度この世界をやり直すことができるのなら、もっと上手くやれるはずだと信じていた。

ラッキーはウォルトの前から姿をくらまし、孤独に生きていた。

ウォルトが亡くなった時にも立ち会うことができなかった。

ウォルトの死から5年後、ラッキーはロイの最期は看取ろうと決めていたので彼のもとへと向かった。

ディズニーがアニメーションの業界で大成しなかったその世界でも、ロイの活躍は目覚ましいものだったという。

ロイが亡くなる瞬間、病室は白い光に包まれたという。

ラッキーは目がくらみ、思わず両手で顔を覆った。

ラッキーが意識を取り戻すと、1928年のハリウッドからの帰りの列車の中に戻っていた。

「神様がもう一度チャンスをくれたのかもしれない…!」

ラッキーが記憶を頼りにウォルトのもとへと走った。

ウォルトとの初めての出会いをやり直せる。

しかし、そこでは既に私とウォルトの初めての出会いの瞬間が繰り広げられていた。

ウォルト「お腹が空いているのかい。まぁ、落ちたものを私が食べるわけにもいかないし、落ち着いてお上がりよ」
マウス「あぁ、すまないね。恩に着るよ。」



その時から、ラッキーは本来自分がいるはずだった場所にいる私を妬むようになった。

ラッキーにとっては、自分ではない他のイマジナリー・フレンドがウォルトと一緒にいること、そして何より自分がいた時よりもディズニーが成功している現実に苛立ちを覚えた。

私はラッキーを危険な存在だとも感じたが、彼の気持ちを慮ると決して責める気分にはならなかった。

もし彼が私の目の前に現れた時に事情を話してくれていたら、三人で楽しくやれていたのだろうか。

ディズニーはスタジオとして成功していただろうか。

どちらにしてもウォルトは帰ってこない。

私はラッキーの話を聞いて、あの人物に会わなければならないと感じていた。






<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
マウスの存在をロイに話してしまい、ペナルティとして消滅した。

◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
独創性のある弟を財政面で支える良き理解者。

◆ダック
マウスの友人である礼儀正しいアヒル
クラレンス・ナッシュのイマジナリー・フレンド。

◆コング
IFAのボディガードを務めるゴリラ。オーナーはいない。

◆ラッキー
かつて暗い夜道でマウスを突然襲った黒コートのウサギ。
マウスに対し、並々ならぬ悪意を見せる。



史実への招待

キングダム ハーツ』シリーズでXIII機関をはじめとするキャラクターたちが身につけている謎の黒コート。

キングダム ハーツ』のシークレットムービーに登場したこの黒コートは以降のシリーズで謎めいた人物の代名詞ともいえるアイコンになりました。

この黒コートは悪のトレードマークではなく、闇を払う衣として着用されています。

XIII機関のメンバーが全員着用していることもあり、機関のイメージも強いですが、作中の時系列で過去にあたるキーブレード戦争以前の時代にも存在しています。

初登場の怪しげな人物がフードで顔を隠して登場することで正体を隠すメタ的な効果もありますが、ミッキーが着ている時はあの特徴的な大きな丸い耳が丸見えです。

ちなみに闇を払うコートの設定は後付けなのか、1作目でのミッキーはパンツ一丁で闇の世界を彷徨っています。

その理由は後の作品で明かされますので、パンツの真実を知るためにもぜひシリーズを遊んでみてください。