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【連載】幻のねずみ #36『夢はひそかに』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


『シンデレラ』では『ファンタジア』ほどの予算がなかったことから、全編を実写で撮影してからレイアウトを参考にして絵を描いていく手法をとった。

実写フィルムを参考にして絵を描いていく方法は創造性を損なうのではないかという声もあったが、そこはディズニーのアーティストたちの腕の見せ所なのでもあった。

というのも、『シンデレラ』はディズニーの黄金期を支えるスタッフであるナイン・オールド・メンと呼ばれる精鋭のメンバー9名が全員揃った初めての作品となった記念すべき一作となっていたのである。

彼らは初期の短編や『白雪姫』の頃からディズニー作品に貢献してきた実力者揃いであった。

はシンデレラのアニメーションを担当したのは、エリック・ラーソンとマーク・デイヴィス。

二人の間には意見の相違もあったが、それぞれの主張が上手い具合にミックスされ、シンデレラは優しさと賢さを併せ持つ魅力的なキャラクターとなった。

ミルト・カールは王子、王様、大公、フェアリー・ゴッドマザーまで幅広く担当し、表情豊かな彼らの見せ場を次々と生み出した。

フランク・トーマスはこれまでバンビやピノキオといった愛らしいキャラクターを担当していたが、本作ではトレメイン夫人を担当することになった。

フランクは意地悪なキャラクターについて考え抜き、本人がやりすぎたと感じるぐらいに恐ろしい継母を生み出した。

彼と様々な作品でタッグを組んだ親友のオリー・ジョンストンはシンデレラの意地悪な義姉たちを担当した。

品のない姉たちを大げさに描き、ウォルトはアナスタシアの笑い方を見て大笑いした。

ウォルフガング・ライザーマンはダイナミックなアクションシーンを得意としており、本作ではネズミたちがネコのルシファーに襲われる場面を担当することとなった。

実写フィルムとアニメーションを比較すると、そのどれもが魅力的にアレンジされているように思えた。

ウォードが担当する猫とネズミのキャラクターには実写のモデルが存在しないことから、思い思いに楽しく描いていた。



シンデレラを助ける妖精のおばあさん、フェアリー・ゴッドマザーのデザインは実に難航した。

いくつものデザイン案が出されたが、ウォルトにとってはどれもいまいちしっくり来なかったのである。

ある時、ウォルトの目に留まったデザインは、アート・ディレクターのケンドール・オコナーが自分の妻メアリーの数十年後の姿をイメージして描いたものだった。

妖精の声は性格俳優のベルナ・フェルトンが演じ、彼女らしいユーモラスさがキャラクターに実によくマッチした。



8年ぶりの本格的な長編アニメーション映画となる『シンデレラ』は批評家から絶賛され、収益もロイの見込みを遥かに超える800万ドル以上をマークした。

ウォルトは本作の楽曲は絶対ヒットすると考えており、自ら音楽出版社を設立して楽曲の権利を自社管理した。

ウォルトの読み通り、『シンデレラ』のサントラは75万枚の大ヒットとなった。

キャラクターグッズも売れに売れ、スタジオは資金面で救われたが、ウォルトは「白雪姫と比べると手抜きが目立つね」と辛口の評価を下していた。

とはいえ、『シンデレラ』はディズニーの歴史に残る名作として名を連ねることとなった。



さて、『シンデレラ』の5ヶ月後には同時進行でイギリスで撮影していた初の完全実写映画『宝島』も封切られた。

『宝島』はご存知ロバート・ルイス・スティーブンソンの同名小説の映画化作品であり、カメラマン出身の新人バイロン・ハスキンが監督を務めた。

『宝島』は1934年に既にトーキーとして映画化されており、若き日のジャッキー・クーパーがジム少年を、ロング・ジョン・シルバーをウォーレス・ビアリーが演じていた。

今回はジム少年を『南部の唄』や『メロディ・タイム』に引き続き、ボビー・ドリスコールが演じた。

ロング・ジョン・シルバーはロバート・ニュートンが演じ、映画史に残る新たなシルバー像を確立したのだった。

映画自体の完成度は高く評価され、特に制作を行ったイギリスではかなりの興行収入をマークすることができた。

これまで長編映画のほとんどをアニメーションが占めていたディズニーだったが、他の映画スタジオ同様に実写映画を大量投入するきっかけとしては、今回の成功は十分なものでもあった。

年末には初めてテレビに進出することになり、翌年公開を控えた『ふしぎの国のアリス』の宣伝を兼ねたクリスマス特番を放映した。

ウォルトが映画の裏側を紹介するこの番組は好評だった。

翌年の1951年、『ふしぎの国のアリス』が公開された。

アリスは原作が根強い人気を誇っており、原作ファンとディズニーファンの療法に訴求できるように鮮やかなデザインでポップな仕上がりを目指した。

アリスはウォルトが高く評価していた女性デザイナーのメアリー・ブレアによる背景が独特の世界観を表現していたが、ルイス・キャロルの著した言葉遊びなどの文学的な面白さを映像化することができていないと評価された。

結果として原作とディズニー、どちらのファンにも評判が芳しくなく、ウォルトも「ハートのないアリス」と形容するようになってしまった。

『シンデレラ』と『宝島』のおかげでディズニーのスタジオは束の間の余裕を得た。

ウォルトは仕事で海外に行くたびに妻のリリーを連れていき、何やら各地の遊園地を視察するようになった。

また彼は何かを企んでいるようだ。




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
独創性のある弟を財政面で支える良き理解者。

リリアン・ディズニー
ウォルト・ディズニーの妻。
ミッキーマウスの名付け親でもある。

◆ウォード・キンボール
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
ジミニー・クリケットの担当で知られる。

フランク・トーマス
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
バンビのスケートシーンを担当した。

◆オリー・ジョンストン
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
フランクの親友。シンデレラの義理の姉たちを担当する。

◆ジョン・ラウンズベリー
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
『ファンタジア』の時の踊りで活躍した。

◆マーク・デイヴィス
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
バンビととんすけを担当した。

◆ウォルフガング・ライザーマン
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
モンストロや恐竜など迫力あるシーンを得意とする。

◆レス・クラーク
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
ミッキー誕生以前からディズニー・スタジオで活躍している。

エリック・ラーソン
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
『南部の唄』の動物たちを担当した。

◆ミルト・カール
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
アニメーター屈指の優れたデッサン能力を持つ。

◆ケンドール・オコナー
ディズニー・スタジオのアート・ディレクター。
フェアリー・ゴッドマザーをデザインした。


史実への招待

2000年代に入ると、ディズニープリンセスのブランド展開が本格化し、シンデレラもそのメンバーとして人気を博しました。

2002年には『シンデレラ』のその後を描くオムニバス『シンデレラII』が発売されました。

庶民感覚を忘れないシンデレラが王室ならではの苦労を乗り越えていくエピソードや、意地悪な義理の姉アナスタシアの恋路を描くエピソードなどが描かれます。

2007年にはシンデレラとSFの異色のコラボレーション『シンデレラIII 戻された時計の針』が発売されました。

『シンデレラIII』では、受け身のプリンセス像であったシンデレラを新たな解釈で描き直し、幸せのために自ら行動するアクションシーンがが追加されています。

時代が進むにつれて新たな一面が描かれているシンデレラは時々賛否を呼ぶこともありますが、それだけ新たな魅力を見せてくれています。