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【連載】幻のねずみ #35『新しいヒロイン』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


第二次世界大戦は政府が発注したプロパガンダや南米をテーマにした映画で凌いでいたが、戦後にはスタジオは経営危機に陥っており、本作で挽回しないと先がない状態であった。

ウォルトはロイの反対を押し切り、動物ドキュメンタリーと並行で長編アニメーション映画を復活させることとした。

ウォルトには高いコストを掛けてでも長編アニメーション映画に挑戦しないと、会社には進歩も未来もないというスタンスであった。

候補として用意されていた『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』『ピーター・パン』のうち、ウォルトは最もシナリオが固まっていた『シンデレラ』にゴーサインを出した。

『シンデレラ』の映画化の話は何十年前もからあり、このタイミングで選ばれた本作には観客の感情に訴えることのできる共感を得られる物語としての強みがあった。

シンデレラはつましい暮らしの中でも大きな夢を持ち想像をめぐらす点が、アメリカン・ドリームを信じるウォルトと共通していた。



『シンデレラ』を『白雪姫』のような魅力的な作品にするため、ウォルトはぴったりの作曲家を求めており、最終的にポピュラー音楽の作曲家が集まるティン・パン・アレーへと辿り着いた。

ティン・パン・アレーの作曲家たちに依頼すると、彼らは早速『夢はひそかに』という曲を完成させた。

ウォルトは「悪くないね」という彼なりの最高の賛辞を送った。

作曲家たちはシンデレラの歌のデモテープを作るにあたり、知人のアイリーン・ウッズに歌を依頼した。

ウォルトはこのテープを聴き、彼女の囁くような声がシンデレラにピッタリだと思い、彼女本人に電話を掛けて「シンデレラになりたいですか?」と問いかけた。

シンデレラが床の拭き掃除をしながら歌う『スウィート・ナイチンゲール』という楽曲の収録の際には、アイリーンの歌を聴いたウォルトは5分間も黙り込んだ。

アイリーンは不満がられたと思ってそわそわしていたが、ウォルトは口を開くなり「洗剤の泡に映ったシンデレラにも別の音階を歌わせて二重唱にするのはどうだろう?」と提案した。

世間ではギター奏者で発明家のレス・ポールが多重録音という手法を使っており、ウォルトもこれを使いこなせると思っての提案だった。

そして「いや、もっと泡を浮かべて多重唱にできる。きっとうまくいくよ。」と言った。



この映画の中でウォルトが最も気に入ったのは、変身のシーンであった。

『白雪姫』では王妃が老婆に変身したり、『ピノキオ』ではピノキオが本当の人間の子に変身する場面が描かれたが、本作では厳しい仕打ちに耐え灰かぶりになりながら働くヒロインが美しいプリンセス姿への変身を遂げる。

この重要な見せ場は特別な技術を使ったわけではないが、ウォルトの望みどおりの出来映えとなった。



『シンデレラ』では人間たちの世界と動物たちの世界が描かれ、それぞれがシンデレラを接点に共存している。

継母の残酷さが光る比較的シリアスな人間の世界に対し、動物の世界ではコメディシーンが展開され、悪役の猫でさえ恐ろしいながらも憎めない魅力がある。

ある日、アニメーターのウォード・キンボールは自宅にあるミニSLを見せるため、鉄道好きのウォルトを招いてくれた。

ウォードは『シンデレラ』の猫のルシファーのデザインが定まらずに困っていたが、ウォルトはウォードの家の猫フィーツィを見るなり、「ルシファーならここにいるじゃないか!」と声をあげた。

ウォルトとウォードは二人でシカゴの鉄道博覧会へ行くこともあった。

ウォルトはスタジオに鉄道を敷き、模型を走らせることにした。

ハリウッドに一般の人向けの見世物がないことに目をつけていたウォルトは、スタジオ内のSLに乗ってハリウッドの仕組みを写真で見られるアトラクションを作りたいと考えていたが、スタジオではスタッフたちの作業の妨げになると思い、将来的には向かいの土地に簡易的なパークを作りたいと漠然と考えていた。

『シンデレラ』の制作中にスタジオを訪れた記者は鉄道模型に執着するウォルトを見て呆れていた。

ウォルトは新しい住居にも鉄道を敷設する計画を立てたが、リリーに手入れした庭に線路は敷けないと反対されたので花壇を避けて線路を敷いた。

ウォルトは8分の1サイズのミニSLを購入してキャロルウッド・パシフィック鉄道と命名し、線路脇にマーセリン時代のものを思わせる赤い納屋を建てた。

ウォルトにとって大好きな汽車は大切な世界であった。

そしてウォルトが作りたがっていたパークの構想は後に新たな事業を生み出すこととなる。



チームメンバーは強化されていったが、ウォルトは『白雪姫』の頃のような興奮や可能性を感じられなくなっており、体力的にもキツい仕事はスタッフに任せるようになっていた。

スタジオで雇った看護師のヘイゼル・ジョージは毎日午後5時にオフィスへ来て、ウォルトの話を親身に聞きながら、温熱療法を施してくれた。

第二次世界大戦後、アメリカの映画会社はイギリスの収入を国外へ持ち出せなくなっていたことから、『シンデレラ』と同時進行でイギリスで映画製作を行うことになった。

イギリスではディズニーで初めてアニメーションを一切使わない完全実写映画として『宝島』を制作し、妻や娘たちをイギリスに遊びに行かせるきっかけともなった。

アニメーターたちは、実写映画用のクレーンカメラで興奮するウォルトを見て「あの様子じゃ、もうアニメには戻ってこないだろうな」と直感した。




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
独創性のある弟を財政面で支える良き理解者。

◆ウォード・キンボール
ナイン・オールド・メンのひとりであるアニメーター。
動物たちのシーンを担当する。

リリアン・ディズニー
ウォルト・ディズニーの妻。
ミッキーマウスの名付け親でもある。

◆アイリーン・ウッズ
シンデレラの声を演じる女優。

◆ヘイゼル・ジョージ
ウォルトを担当する看護師。

史実への招待

『シンデレラ』の公開から20年。

女の子たちの憧れであるシンデレラの暮らす城はフロリダに姿を現しました。

1971年にオープンしたマジック・キングダムのシンボルとしてシンデレラ城が建てられたのです。

そして我らが東京ディズニーランドもマジック・キングダムをベースにしていたことからシンデレラ城がシンボルとして選ばれました。

東京ディズニーランドのシンデレラ城の地下には長らくヴィランズたちの隠れ家がありました。

そのアトラクション『シンデレラ城ミステリーツアー』はヴィランズに焦点を当てた珍しいアトラクションとなっており、ゲストは彼らの潜む地下道を進んでいきました。

そして最後に当時の新作映画『コルドロン』の悪役ホーンド・キングとの対決に挑むのです。

シンデレラ城ミステリーツアー』のクローズ後、しばらくの時間を経て『シンデレラのフェアリーテイル・ホール』というアートを楽しめるアトラクションがオープンしています。