ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #39『ハーブと地球で一番幸せな場所』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1953年9月某日。

私はウォルトのディズニーランド構想を聞いた。

入口からはまっすぐウォルトの愛する古き良き時代のメインストリートが伸びている。

メインストリートの終点、すなわちディズニーランドの中央にはハブがあり、そこから各方向に進んでいくとそれぞれの国が見えてくる。

自然と冒険の国・アドベンチャーランドには熱帯のジャングルが広がっており、探検家の船で動物の住む河を進むことができる。

開拓の国・フロンティアランドにはロマン溢れる西部開拓時代の世界で保安官や先住民の暮らしが想起される。

こびとの国・ドワーフランドでは小さなこびとの人形がゲストたちを迎え入れる。

休日の国・ホリデーランドでは時期に応じて季節の装飾や外部の出し物など自由なアクティビティを楽しめる場所を提供する。

未来の国・トゥモローランドには人類の夢である未来や宇宙をコンセプトにしたコンテンツが建ち並ぶ予定だという。

おとぎの国・ファンタジーランドではディズニーの映画に登場した世界やキャラクターをモチーフにしたアトラクションが並び、ゲストを映画の世界へと誘う。

ファンタジーランドの丘の上には高さ30mほどの立派な城がそびえるという。

「それは何のお城なんだい?」と私が尋ねると、ウォルトは「『眠れる森の美女』の城だよ」と答えた。

『眠れる森の美女』は『シンデレラ』の成功を受けて準備が開始されたディズニーの第三のプリンセス・ストーリーで、ディズニーランドのオープンに合わせて公開するべく、急ピッチで制作が進められているという。

ウォルト「どうかな?今度この頭の中のイメージをデザイナーに絵に起こしてもらおうと思うんだけど」
マウス「とてもいいと思うよ。でもミッキーとはどこで会えるんだろう?」

ウォルトは半日にも渡って壮大な説明を繰り広げ、終わることには外はすっかり暗くなっていた。

ウォルトが食卓でリリーから「一日中部屋から何か聞こえてましたが、お仕事ですか?」と訊かれると、「ハービーへのプレゼンテーションのイメージトレーニングをしていたんだよ」と答えた。



9月26日の朝、ウォルトはハーブ・ライマンに電話をかけた。

ウォルト「やぁ、ハービー。元気にしてるかい?」
ハーブ「えぇ、おかげさまで。」

ハーブはウォルトから突然電話がかかってきて、何の話だろうかと身構えていた。

土曜の朝、ウォルトはハーブをスタジオに招き、本題を切り出した。

ウォルト「実はね、今度新しいテーマパークを作ろうと思ってるんだ。」
ハーブ「へぇ、どこなんです?」
ウォルト「最初はこのスタジオの向かいの通りにしようと思ってたんだけど、手狭なもので他の場所になりそうだ。」
ハーブ「どんなパークなんですか?」
ウォルト「老若男女が楽しむことのできるパーク、ディズニーランドさ。それでね、今度兄のロイが資金調達のためにニューヨークへ行くんだけど、ビジネスマン相手にはディズニーランドがどういうものかひと目で分かるような資料を出してやらなきゃいけないんだよ」
ハーブ「それは興味ありますね。私にも見せてくださいよ」
ウォルト「いいや、それをこれから君が描くんだよ」

ハーブはこの土日の二日間、ウォルトに付き添われてディズニーランドの完成予想図を描くことになった。

ウォルトの説明は驚くほど見事なものだった。

ウォルトの説明は私にしてくれたものよりイメージが浮かびやすいものとなっていたが、中身自体はだいたい同じであった。

ただ、私への説明のときにはなかった「ミッキーに会える場所」、トゥーンタウンが追加されていたことを私は嬉しく思った。

42時間をかけて完成したこの大作にウォルトも私も満足したものであった。



ウォルトとハーブの力作を携えてロイはニューヨークへと向かった。

三大ネットワークはディズニーの番組を喉から手が出るほど欲しがったが、その条件であるディズニーランドの支援に関しては全く別であった。

業界1位のNBCと2位のCBSはディズニーランドに興味を惹かれなかったのである。

ロイは後発で業界3位のABC社長に電話をかけた。

結果として、ABCがパークの権利35%を所有することを条件に、建設費最大450万ドルまで融資することを保証してくれた。

ABCもディズニーランドにそこまでの関心があったわけではなかったのだが、ディズニーの番組という強力なコンテンツの獲得のために契約を応じることとした。

ウォルトが初めてミッキーの映画や白雪姫をリリースとした時、その良さを真に評価してくれたのは配給会社である以前に大衆の声だった。

資金繰りも重要だったが、彼はより多くの人にディズニーランドのことを知ってもらうためにテレビ進出は欠かせないことだと考えていたのだ。



<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆ロイ・ディズニー
ウォルト・ディズニーの8歳年上の兄。
独創性のある弟を財政面で支える良き理解者。

◆ハーブ・ライマン
ディズニー出身のデザイナー。
ディズニーランドのマップを描いたアーティスト。

リリアン・ディズニー
ウォルト・ディズニーの妻。
ミッキーマウスの名付け親でもある。

史実への招待

ハーブ・ライマンは1910年、イリノイ州で生まれました。

父は医者のハーブ・D・ライマン、母はコーラ・ベル・ライマンといいます。

母はハーブにも医者になってほしいと思っていましたが、ハーブは絵が好きでした。

ハーブは芸術家を目指して大学に通っている時に猩紅熱にかかり、生死をさまよっています。

その後、母から芸術学校の付属校への進学を認めてもらい、アニメーションの道へと進みます。

1932年にMGMスタジオでデザイナーとして活躍しました。

1938年にカリフォルニア州で個展を開いている時、ウォルト・ディズニーと出会いました。

ウォルトとの出会いからスタジオに誘われたハーブは『ファンタジア』のアート・ディレクターを担当。

50年にも渡るディズニーでのキャリアが幕を開けたのです。