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【連載】幻のねずみ #23『空想動物記I ファントム・ドッグ』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1889年、チャーリーは誕生した。

彼はわずか5~6歳の頃、人気女優だった母ハンナの代役として舞台に立ち、その堂々たる振る舞いを見せていた。

その頃から舞台に立つことが彼の心の喜びであったが、一度で数名しか喜ばせることのできない舞台には物足りなさを感じており、いつしか映画の世界に飛び込んだ。

19歳になるとカーノー劇団に所属し、いつしか演じるだけには留まらず、監督も務めるようになった。

1913年、チャーリーはマック・セネットが設立したキーストン社と契約した。

キーストン社は看板スターのフレッド・メイズが抜けた穴を埋めるための新たなスターを探しており、セネットはチャーリーに映画を経験してもらうために数々な現場を見学させた。

チャーリーは初めての映画である『成功争ひ』の中で女たらしの詐欺師という役柄を演じた。

キーストン社の新人俳優であるチャーリーはなかなか自分の意見を言うことができず、アドリブのギャグをたくさん演じまくった。

しかし、彼のギャグは編集によって支離滅裂なものとされており、チャーリーはこの映画における自分の働きに落胆した。

彼にとっての2作目『ヴェニスの子供自動車競走』では、チャーリーはスタジオにあった即席の衣装で放浪紳士として登場した。

本作で初めて観客の前に登場したこのシルクハットにスーツ、ちょび髭を生やしたユーモラスな動きがチャーリー・チャップリンのトレードマークとして認知されることになる。



1914年、チャップリンは初めての長編映画「醜女の深情」に出演した。

翌年、チャップリンはエッサネイ社と契約して放浪紳士のキャラクターをさらに演じるようになった。

チャップリンのキャラクターは支持を集め、人気の俳優や歌手も彼のキャラクターを真似して演じるようになったが、彼ほどの愛嬌を表現できる人はいなかった。

その頃、チャップリンの兄であるシドニーの喜劇役者として映画界に進出することとなった。

チャップリンはマスコミの注目を得て、さらに有名になっていった。

エッサネイのスタジオでエドナ・パーヴァイアンスという女優と出会い、チャップリンと彼女は惹かれ合いながらも、30本以上もの映画で共演した。

チャップリンの仕事が忙しくなると、エドナは彼の仕事に嫉妬するようになり、気を引くために他の男に誘いをかけたりし、結局二人の関係は悪化した。



1917年、『チャップリンの移民』では、ヨーロッパから来た低層階級の移民というアメリカの悩みの種を描いた。

コメディではありながら、ロマンチックな内容も含める映画だったが、その点が一部の人からは受けれ入れられなかった。

チャップリン長編映画においては笑いだけでなく、観客を感動させる要素を意識していた。

ディズニーが初めて長編映画『白雪姫』を制作していたときと同じ考えである。

兄のシドニーとは仲が良く、シドニーは契約の交渉役として顔を出してチャップリンの地盤を支えることもあった。

チャップリンはいよいよ自分のスタジオを作り、ロンドン郊外の雰囲気を持つ理想的な場所を手にした。

チャップリンはこのスタジオで自分が全権を握った映画を制作できるようになった。

初めての映画出演で自分の意見をまともに言うことができなかった新人俳優の時とは大きな違いである。



1918年、第一次世界大戦が開戦していた。

ウォルト・ディズニー赤十字軍に参加していた頃、チャップリンも軍に志願したが、政府はチャップリンの人気を資金集めのために使うべきだと考え、それを却下した。

チャップリンプロパガンダの短編を制作し、シドニーが皇帝を演じた。

そして他のスターとともに公債を売るツアーに参加した。

その一方で、戦争をテーマにした『担へ銃』という映画を制作し、多くの人の反対意見を押し切って公開した。

笑いの中に戦争の恐怖と不条理を描いた本作は帰還兵の間でも人気を得て、蓋を開けると戦時中としては異例の大ヒットとなった。



この年には『チャップリンの犬の生活』という約40分の映画も制作された。

無職の放浪紳士チャーリーは、野良犬の群れにいじめられている犬を助け、スクラップスと名付ける。

スクラップスが強盗の埋めた財布を掘り当て、結果的にチャーリーが気になっていた酒場の歌手とともに幸せに暮らすという物語である。

チャップリンはこのスクラップスを演じる犬を探し出した。

その犬が無事に映画撮影を終える頃にはすっかりチャップリンになついていた。

しかし、4月になりチャプリンが前述の公債募集ツアーに出かけると、その犬はすっかり元気をなくし、食欲もなくなってしまった。

犬の亡骸はスタジオにて埋葬され、墓銘には『マット、4月29日、傷心にて死去。ここに眠る。』と記された。




<つづく>


登場人物

チャールズ・チャップリン
アメリカを代表する喜劇役者「チャーリー」。
シルクハットをかぶった放浪紳士のキャラクターがトレードマーク。

◆マット
チャップリンの犬の生活』でスクラップスを演じる犬。

◆ハンナ・チャップリン
チャーリーの母。舞台女優。

シドニーチャップリン
チャーリーの異父兄。
弟の作品に出演するほか、アイデアの提供も行った。

エドナ・パーヴァイアンス
チャーリーの共演女優。
『アルコール夜通し転宅』から数多くの作品に出演。

◆マック・セネット
キーストン社の設立者。
映画プロデューサーとしてチャップリンとも共作した。

◆フレッド・メイズ
キーストン社の元看板スター。

史実への招待

連載『幻のねずみ』は今回より過去編に突入します。

スポットを当てるのは、ウォルトにとって憧れのスターであり、後に友人ともいえるチャールズ・チャップリンです。

チャップリンはウォルトの少年時代に大きな影響を与えた人物でした。

1923年にウォルトがハリウッドに向かった時はチャップリンの撮影スタジオの近くを散歩したこともアリました。(第7回)

【連載】幻のねずみ #07『ウォルト・ビフォア・ミッキー(後編)』 - ディズニー データベース 別館

1932年から1937年まではディズニーの短編アニメーションを配給することになったユナイテッド・アーティスツチャップリンが出資した会社であり、二人は対面も果たしています。(第12回)

【連載】幻のねずみ #12『わんちゃん物語』 - ディズニー データベース 別館

その間には『サンタのオモチャ工房』『ミッキーの名優オンパレード』『ミッキーのポロゲーム』といった作品で、チャップリンをモチーフにしたキャラクターもアニメーションに登場させています。

ディズニーとユナイテッド・アーティスツとの関係は1937年で一度区切られることとなりますが、『空軍力の勝利』(1943年)でも再度配給を担当しています。