ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #18『嘘をつくレッスン』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


『白雪姫』の成功にあぐらをかくこと無く、ウォルトは新しい長編映画の計画を始動させていた。

いくつかの候補のうち、ストーリーが固めやすかった『ピノキオ』が第2作として選ばれることになった。

『白雪姫』の時は短いおとぎ話を80分の長編映画にするべく物語を膨らませていく作業をしていたウォルトだったが、今回は原作が長編小説であったため、どの要素をアニメーションに採用するか苦労することとなった。

映画の一番重要なポイントはピノキオをどのように描写するかであった。

原作のピノキオはなかなかの悪ガキであり、そのままの性格でアニメ化しても観客からの共感は得られないし、感情移入して観てもらえないことになってしまう。

ピノキオのキャラクターやデザイン調整はなかなか難航した。



私は呼び出しを受けてダックとともにIFAの事務局へと向かっていた。

マウス「ウォルトが今度は『ピノキオ』を長編アニメでやるらしい」
ダック「そうですか。それは楽しみですね。」
マウス「ダック、君はピノキオの話を知っているかい?」
ダック「もちろんですよ。操り人形の鼻が伸びるお話でしょう。」

それで話を知っているというかはいささか疑問である。

マウス「ピノキオは悪いことをすると鼻が伸びるんだよ。嘘を付くとだね。」
ダック「そりゃ、嘘はいけませんからね」
マウス「君はウソをついたことはないのかい?」
ダック「私はありませんね。つく必要性もありませんから。」

生きていれば誰しも嘘をつく経験はあると思っているが、彼のように自信を持って嘘をついたことはないといえる者も中にはいるんだろうなぁと漠然と考えて歩き続けていた。

事務局へ到着すると、ゴリラのコングがロビーで待ち構えていた。

コング「いらっしゃい、よく来てくれたね、マウスさん。光の回廊は出せるようになった?」
マウス「目下練習中です。」

挨拶もそこそこに、コングは本題に入った。

「我々、IFAではしゃべる動物たちの色々な問題に取り組んでいるだけどね、今回は君たちにもあることをお願いしたいんだ。」

コングがそういって連れてきたのは年老いたフクロウだった。

フクロウは気持ちよさそうに眠りながら歩いてきた。

「起きてください、起きてください!」

コングに力強く揺さぶられると、フクロウは首をぐらんぐらんさせて驚いて目を覚ました。

「こちらが今日からお世話になるマウスさんとダックさん。お二人とも、ウォルト・ディズニーのアニメーション・スタジオにお住まいなんですよ」

コングはフクロウに私たちのことを紹介した。

マウス「あの、こちらのフクロウさんは…?」
コング「彼は何十年も前からこちらの事務局でお預かりしているフクロウさんなんですが、彼がどこから来たのか誰のイマジナリー・フレンドだったのか一切覚えていないそうなんです。そこで色々なイマジナリー・フレンドさんのもとに居候して、何か記憶が蘇ればいいなと思っているんです。突然ですみませんが、今日からはマウスさんとダックさんのもとでお預かりいただきます。」
マウス「えっ、そんな突然言われましても…」
コング「大丈夫。フクロウさんは昼も夜もずっと寝ていますから。」
マウス「それはお預かりする意味あるんでしょうか……」



私はフクロウさんをスタジオへ連れて帰ると、彼をどこへ住まわせようかダックと考えた。

ダック「まずこのサイズじゃ大きすぎます。指パッチンで100分の1サイズに縮めましょう。」
マウス「でも指パッチンは自分でやらないと小さくなれないんだよね」
ダック「じゃあ起きた時にパッチンしてもらいましょうか」

それから一週間が経ったが、フクロウさんは一向に起きる気配がなかった。

ある日、私とダックはこれ以上彼を隠しておくのも大変だと思い、一度夜に起こしてみようという結論に至った。

ダックが来るのを待っている間、私が部屋の掃除をしていると背後から鋭い声が聞こえてきた。

「なぜ、お前はそこにいる?」

私が振り向くと、うつろな目をした、それでありながら鋭い眼差しのフクロウさんが私のほうをじーっと見ていた。

マウス「え、私ですか?今日はダックと約束をしていましてそれまでの間…」
フクロウ「そこはお前の居場所だったか?」

フクロウさんは私の言葉を遮って続けた。

マウス「あの、フクロウさん。居場所というのは一体……」

驚いて私がフクロウさんに近づいた頃には、彼はいつものようにすやすやと寝息を立てて眠っていた。

お前の居場所…?

私が呆然と立ち尽くしていると、ダックがやってきた。

ダック「お待たせしました。さっそくフクロウさんを起こしてみましょうか?」
マウス「あ、いや。今日はフクロウさんも疲れているみたいだし、また今度にしてみないか?」
ダック「いつも寝てるんだから疲れてるってことはないと思いますが…。マウスさん、もしかして何かあったのですか?」
マウス「いや、なんにも!」

私はとっさに嘘をついた。

つく必要のある嘘だったのかはわからないが、いまフクロウさんが目覚めたら何を言われるのか不安に感じている自分は確かにそこにいたのであった。




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆ダック
マウスの友人である礼儀正しいアヒル
クラレンス・ナッシュのイマジナリー・フレンド。

◆コング
IFAのボディガードを務めるゴリラ。オーナーはいない。

◆フクロウさん
IFAで長年預かられている身元不明のフクロウ。
常に眠っており、ほとんど目を覚ますことはない。


史実への招待

『白雪姫』で七人のこびとという魅力的な仲間たちを生み出したディズニーが『ピノキオ』(1940年)で作り出したのはジミニー・クリケットでした。

原作ではチョイ役だったジミニーは名アニメーターのウォード・キンボールによって魅力的なキャラクターとなりました。

ジミニーは多彩なキャラクターで、ディズニーのスタンダード『星に願いを』も彼の歌唱による楽曲です。

この良心として人を導くというキャラクターから、テーマパークのキャストの指導係の象徴としても使われています。

1947年にはオムニバス映画『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の進行役を務めました。

1950年代には良心らしく、子供向けの教育エピソード『I’m No Fool』『僕だってできるよ』シリーズの主演も担当しています。(一部エピソードは『ピノキオ スペシャル・エディション』(旧版)にも収録)

1980~90年代に日本で発売されたビデオ作品の中には、ジミニーが司会を務めるオムニバスもののアニメーションもいくつかあったことから、彼に司会者のイメージがある方もいるのではないでしょうか。

1983年には『ミッキーのクリスマスキャロル』で過去のクリスマスの亡霊役を演じ、さらには同作のプロデューサーも担当していました。