ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #11『空想動物記VI コバルトの帰還』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


私がIFAの事務局に戻ると、マット・ツーが呆れた顔で待っていた。

マット・ツー「マウスさん。まったく、どこへ行ってたんですか?」
マウス「すみません。どうしても確認したいことがありまして。」
マット・ツー「あなたに会わせたい人がいたんですが、彼女はもう帰られてしまいました。」
マウス「申し訳ない…。また別の機会にお願いできますか?」
マット・ツー「次は十年後でしょうね」
マウス「えっ」



彼が会わせたかったのはコバルト・ブルー・フェアリーという妖精だという。

彼女はイマジナリー・フレンドを統括する妖精で、IFAの創始者であり、十年に一度地球に降りてきてIFAの活動をチェックして帰っていくのだという。

本来、イマジナリー・フレンドはこの世に生まれた瞬間、ルールの説明のために現れる彼女の幻と対面するのだというが、私は会ったことがなかった。

「マウスさん、あなたが特殊な生まれ方をしたイマジナリー・フレンドであることは私でも分かります。もしかしたら、本物のイマジナリー・フレンドではないかもしれない。なのであなたがショックを受けないように夢はないか確認した上で、フェアリーのもとへと連れてきたのです。」
「そうでしたか……」
「しかし、間に合わなかったものは仕方ありません。また十年後、機会をうかがいましょう」
「はい…」

私の誕生の真相については結局わからなかったが、マット・ツーは本来妖精から受けるはずだった説明をしてくれた。

イマジナリー・フレンドは動物によってその身体のサイズが異なるため、最初に身体を小さくして姿を隠す術を教わるのだという。

「いいですか、片手で尻尾を掴んでください。そして、もう一方の手で指パッチンをすると、手が六色に光って体積が半分になります。もう一回やるとさらに最初の100分の1サイズになります。さらにもう一回やると元のサイズに戻ります。」

教わったとおりに指を鳴らすと、私でもすぐに身体を小さくする方法を実践することができた。

「マウスさんは元々ネズミですから知らなくても困らないとは思いますが、キリンとか象とかだったら死活問題になりますな」とマット・ツーは笑った。

マット・ツー「どちらかと言うとマウスさんに覚えていただきたいのは、瞬間移動の術なんです。私たちは光の回廊というものを通って、世界中のあちこちに瞬間移動することができるんです。」
マウス「え、そんな便利なことが?」
マット・ツー「はい。とはいっても、ワープ先に指定できるズームポイントはいくつか決まってるので、どこでも行けるわけではないんですよ。IFAにはズームポイントの開拓を専門にしているチームもいますね。むしろ、今まで光の回廊を使わずによくやってこられましたね」

光の回廊の使い方はなかなかコツが掴めず、その場ですぐに使いこなすことはできなかった。

「練習していればじきに慣れますよ」

マット・ツーは楽観的に話した。

「他に把握しておくべきルールはありますか?」と私は訊ねた。

「えぇ、あります」

マット・ツーは真剣な顔つきになった。

「とても大事なことです」

彼が言うには、妖精の最初の説明ではオーナーとなる人間がある約束をしなければならないとのことだった。

その約束とは、妖精やイマジナリー・フレンドの存在を他の人間に口外しないこと。

マウス「口外するとどうなるんですか?」
マット・ツー「その人間はお星様になってしまうでしょう」
マウス「それは過酷ですね…」
マット・ツー「あちらの世界では10年に一度、一番綺麗なお星様を競うエヴァンジェリーン・コンテストなるものが開かれて大変盛り上がるようですよ」
マウス「そうですか」

そこまで聞くと、私は妙な胸騒ぎがした。

ウォルトはその説明を受けていないから、そのようなルールは知らないはずだ。

もしウォルトが私の存在を他の人間に口外すれば、彼も私も星になって消えてしまう。

「あの、そろそろおいとましてもよろしいでしょうか?」

私は教わったばかりの光の回廊を開き、ウォルトの自宅の一番近くのポイントにワープし、彼のもとへと急いだ。

夜遅かったのでウォルトはぐっすり眠っていた。

私はウォルトの枕元のシーツにくるまってよろけつつ、オバケのような見た目をしながら彼を起こそうとしたが、先ほど「急いては事を仕損じる」という言葉を痛いほど実感したのでやめておいた。

翌朝、私は疲れから寝過ごしてしまい、起きた頃にはウォルトは既に仕事場へと向かっていた。

私は光の回廊が上手く開けなかったので、自力でスタジオまで辿り着いた。

「やぁ、ウォルト」
「こんにちは、マウス。そんなに汗だくでどうしたんだい?」
「君は私のことをほかのだれかにはなそうとしたことはないかい?」
「うーん、ないな」
「どうしてだい?」

ウォルトはふふっと笑いながら答えた。

「ネズミと話せるなんて言っても誰も信じないだろう」

私の肩の荷が降りた。

「それに君と話せる能力というのは神様がくれたプレゼントかもしれないからね」

彼なら問題なく信用できそうだ、と私は胸を撫で下ろした。



<つづく>


登場人物

◆マウス
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆マット・ツー
シルクハットをかぶった紳士風の雑種犬。
マウスにイマジナリー・フレンドについて教える。

◆コバルト・ブルー・フェアリー
マット・ツーにIFAの統括を任せている妖精。
10年に一度だけ地球を訪れる。


史実への招待

第2作『帝国の逆襲』もヒットし、ルーカスフィルムは第3作『ジェダイの帰還』に取り掛かります。

映画はすっかり大ヒットシリーズとなっていたこともあり、メディアの目を避けるために『Blue Harvest』という仮タイトルで製作が進められました。

スタッフの指摘から、インパクトを重視して映画のタイトルは『ジェダイの復讐』に変更されることになりました。

ジェダイの復讐』というタイトルで広告やグッズなどのプロモーションの準備が進められましたが、映画公開数週間前になり、ルーカスは『ジェダイの帰還』のほうがタイトルとしてふさわしいと判断し、変更を決意します。

しかし、グッズや映画ポスターなどのいくつかはすでに『ジェダイの復讐』というタイトルで製作が進められていたため、ねじれが生じました。

日本では『ジェダイの復讐』というタイトルでそのまま公開され、20年後のDVD化の際にようやく『ジェダイの帰還』へと改められました。

1977年から1983年にかけてエピソード4から6までが公開された『スター・ウォーズ』でしたが、他の作品の映像化については現在の技術がまだ追いついていないと判断し、ここから10年以上にもわたる充電期間へと突入していきます。