ディズニー データベース 別館

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【連載】幻のねずみ #41『使われなかった名前』

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※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1953年の秋、ディズニーランドにふさわしい土地探しはいよいよ終焉を迎えた。

ウォルトはスタンフォード総合研究所に、テーマパークを建設するにふさわしい場所のアドバイスを求めており、その結論はアナハイムへと至った。

南カリフォルニアの人口の移動に着目して導き出したアナハイムにはサンタアナ高速道路が走っており、広大なオレンジ畑が広がるこの土地にはまとめて購入できる大きなサイズの土地の候補が複数存在しているのであった。

今回購入しようと決めた土地にはまだ住民がおり、彼らから土地を買い取り、さらにその新しい引越し先まで手配しなければならなかった。

ディズニーがこの土地を欲しがっていると知れば、当然高額な値段を要求してくる者もいた。

中には家の前に建っているヤシの木を残してほしいという声もあり、その木はアドベンチャーランドの背景として残されることになった。



アナハイムの敷地は65万平方メートルにもおよび、必要となるコンクリートアスファルト、そして各エリアの世界観を表現するための植物は大量に必要となった。

ディズニーランドの資金は常にカツカツで、大量の植物を買うほどの余裕は残されておらず、広告を出して不要な植物を引き取ってカバーした。

そのためジャングルの中にオレンジの木を植えることになり、オレンジの実がなるたびに摘み取らなければならないといったこともあった。

アドベンチャーランドにはジャングルの奥地をボートで探検する『ジャングルクルーズ』というアトラクションを建設していた。

ジャングルの中には人工の川を通し、本物の動物を設置しようと考えていたが、最終的にはゲストが何度乗っても平等に楽しめるよう、機械じかけの動物に変更することとなった。

また、人の流れをスムーズにするためにゲストが歩いて進むタイプのアトラクション(ウォークスルー)はやめて、ボートなどの乗り物に乗せるライドアトラクションが主流となった。

計画はすべて予定どおりとは行かず、小さな人形を並べる予定だったドワーフランドは技術的な制約のために中止となった。



テーマパークという新たな分野に挑戦するウォルトは、映画人としての視点でパークを描こうとしており、世間一般の遊園地関係者が想像だにしないようなアイディアを出した。

ディズニーランドのような広々とした遊園地であれば、入口を複数箇所に用意し、人混みや駐車場の混雑を緩和するのが一般的だが、ウォルトはそれを断固拒否した。

入園を映画のオープニングのように捉え、入口から古き良きメインストリートを歩き、遠くにファンタジーランドの眠れる森の美女の城が見えてくる風景までをすべてのゲストの体験として統一したかったのである。

実写映画で学んだ技術を用いて、思い浮かべた物語をロングショットで視覚化し、立体の実物を作っていった。

WEDのスタッフたちもウォルトの無茶な映画製作の注文を何度も切り抜けてきたことで、パークにおいても彼の注文を応じることに慣れていたのである。

ただし、彼らが実写映画の制作で作り慣れていたセットというものは撮影が終わり次第、すぐに取り壊すものであったので、今回のように永続的に設置され、風化や雷雨に耐えうるものを作る経験はなく、プロの専門棋士の力を借りることが必要であった。

世界中の遊園地を見て回ったウォルトは園内が散らからないように、遊園地の大切な収入源であるホットドッグスタンドの配置すら認めなかった。

遊園地の経営者たちからはこうした従来の常識にとらわれないウォルトの考えはひたすら異様に映るのであった。



ウォルトはよく工事現場を訪れ、全てを熱心にチェックしていた。

ウォルトの細かい指示は作業の遅れを招いたが、スタッフの延期を希望する声には応じなかった。

開園を間に合わせるために、スタッフは3倍の2,500人に増やされ、16時間労働という日もザラであり、徹夜で作業をする人も多かった。

総工費も建設当初の見積もりの3倍以上である1700万ドルに達しており、ウォルトはパームスプリングスの別荘を売却したり、自らの生命保険を解約して資金を捻出。

最終的にはスタッフも寄付するようになった。



私とウォルトの微妙な距離感は相変わらず続いていたが、1954年の年末にウォルトがしゅんとしていた様子を見た私は思わず声を掛けた。

どうやらダイアンとロンの間に男の子が生まれるらしい。

ウォルトは自分の名前を継ぐ子供が生まれることに期待していたが、その子の名前はクリストファーなのだという。

ため息をつくウォルトに対し、私は「まぁ、そんな日もあるさ」と声を掛けた。

「そんな日って?」とウォルトが聞き返した。

私は「僕の名前だって、そう……覚えづらくって親しみにくい名前だから、ミッキーの名前には採用されなかったしね。名前ってそんなものだよ」と答えた。

ウォルトは目を丸くして私の方を見ると、記憶をたどった後、プッと噴き出した。

「あの時はすまなかったね」

ウォルトは笑いながらそう言うと、私たちの間に和やかな雰囲気が流れた。

どうやら私は誰かに似て気難しく、仲直りが苦手になっているらしい。




<つづく>


登場人物

◆マウス
物語の語り手。
ウォルトとだけ話すことができるネズミのイマジナリー・フレンド。

ウォルト・ディズニー
マウスのオーナーで、彼と話せる。
ミッキーマウスの生みの親で、アニメーションに革命を起こす。

◆ダイアン・ミラー
ウォルトとリリーの長女。

◆ロン・ミラー
ダイアンの夫。
アメリカンフットボールの選手だった。


史実への招待

永遠の少年ピーター・パンは歳を取らない一方、ネバーランドに戻る道を選んだウェンディは大人になりました。

『ピーター・パン2 ネバーランドの秘密』ではウェンディの娘であるジェーンの冒険が描かれています。

『ピーター・パン』のフランチャイズには他にもいくつかの作品があります。

例えばピーターと出会う前のティンクのピクシー・ホロウ時代を描いたスピンオフ『ティンカー・ベル』。

この作品ではティンカー・ベルが言葉を話すことからちょっとした反響がありました。

アニメシリーズ『ジェイクとネバーランドのかいぞくたち』では海賊の子供たちがネバーランドを舞台に冒険を繰り広げています。

さらに変化球だと『ワンス・アポン・ア・タイム』ではピーターの新解釈を楽しむことができるかもしれません。

2022年にはDisney+向けに実写の新作がリリースするなど、ピーター・パンの展開はまだまだ続きます。