ディズニー データベース 別館

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『ゾンビーズ』~居場所探しの序章

2022年7月15日、ディズニープラスにてシリーズ最新作『ゾンビーズ3』が配信開始されます。

ゾンビーズ』は2018年にディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービーとして放映され、全米の初回視聴者は約250万人ものヒットを記録しました。

ディズニー・チャンネルでは2006年の『ハイスクール・ミュージカル』の大成功を機に、ティーンを主人公としたミュージカル作品に力を入れるようになりました。『ハイスクール・ミュージカル』以降、シリーズとして成功し三部作までの展開に成功したのは『ディセンダント』と『ゾンビーズ』の2シリーズとなります。

今回はシリーズ第1作『ゾンビーズ』のご案内です。映画との出会いや再会のきっかけとなりますように。


  • 目次

惹かれ合う二人の王道ミュージカル

ゾンビーズ』は主人公の男女が立場を超えて惹かれ合う物語が描かれています。相反する立場間の恋愛模様はミュージカルの名作『ウエスト・サイド物語』でおなじみのプロットであり、ディズニー・チャンネルの人気シリーズ『ディセンダント』でも応用されています。

リメイク版はディズニープラスで配信中

主人公はゾンビのゼッド

ゾンビーズ』の舞台となるシーブルックという町には、かつて事故によってゾンビが発生し50年もの間、壁の向こう側に隔離されてきたという歴史があります。本作はゾンビの本能を抑えるリストバンドの発明により、人間とゾンビの共学化が認められた初日から物語が始まります。

ゾンビ

主人公のゾンビ「ゼッド」はアメフト部のスターを夢見ています。基本的にゾンビたちは差別する側の人間へもあまり良い印象を持っていませんが、ゼッドは比較的ポジティブな考えを持ち、人間の社会に溶け込もうと考えています。

シーブルックでは、社会の多数派である人間が正当な存在であり、異端な存在となるゾンビは差別の対象とされています。舞台となる高校の共学化の経緯については不明であり、校長は「ゾンビの生徒を押しつけられた」と話しています。社会はゾンビの地位向上に向けて動いている一方、現場の教諭はまともに順応できていない辺りリアリティが感じられます。

ゼッド役はディズニー初出演となるマイロ・マンハイム。彼の母親カムリンは『ロミー&ミッシェル』や『ビッグショット!』に出演されています。

やはり迫害されるゾンビ

アメフト部入部を夢見て登校したゼッドですが、ゾンビは地下の教室の使用しか認められず、部活動や食堂の利用を禁じられていました。同じ社会で生活しているものの同等の権利を与えられていない様子は、アメリカが辿ってきた人種の歴史を彷彿とさせます。物語が進むとゼッドの活躍によりゾンビの食堂利用が許されるようになるのですが、それでも利用可能な座席に制限があります。

1955年、黒人女性のローザ・パークスがバスの白人専用の座席を利用し、居座ったことから逮捕された事件がありました。当時はジム・クロウ法によって座席の区別があったほか、停留所の待合場所も分けられていました。食堂のシーンではそうした歴史が繰り返されているような描写がなされています。

ヒロインは人間の少女アディソン

主人公が差別に苦しむキャラクターである場合、それに手を差し伸べる存在がしばしば登場します。『ダンボ』ならティモシー、『シンデレラ』ならフェアリー・ゴッドマザーです。彼らは差別する側・される側のいずれにも属さない第三者ですが、『ゾンビーズ』では差別する側に属している人間のアディソンがそのポジションに該当します。

ゾンビじゃないほう  ……だが?

このアディソンちゃんですが、彼女にも「何色にも染まらない白い髪の毛」というコンプレックスがあり、普段は金髪のカツラでそれを隠して生活しています。本人も気にしているのですが、カツラを被るように指示したのは彼女の両親です。

この映画の冒頭はアディソンの「シーブルック。ここは完璧に計画された町。」といったナレーションから始まります。シーブルックは普通の人間たちが普通に暮らす町で、急激な変化を良しとしない風土があります。そのためアディソンの両親も世間に溶け込むため、彼女の秘密を隠そうとします。子に関する知られたくない事実を世間にひた隠しにする親は『アナと雪の女王』に通ずるものがあります。

この白い髪の理由については1作目で触れられることはありません。アディソンは両親の影響でゾンビに気味悪い印象を抱いていましたが、『美女と野獣』のベルのようにゾンビを内面で判断するようになります。彼女の優しい性格もあるのでしょうが、彼女がゾンビに好意的であった理由にこのコンプレックスがあったことは明白です。

アディソンを演じるメグ・ドネリーは、今月開始する『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』のシーズン3に出演が予定されています。

ゾンビ迫害派のバッキー

アディソンが憧れるチアリーディング部の部長は彼女のいとこバッキーです。バッキーは本作の憎まれ役で、人気者のチアリーダーたちを率いて多数派の筆頭としてゾンビを差別します。

この設定だけ聞くと、アディソンの髪の秘密を知り彼女を異端扱いして差別する展開が待っているのでは……とも思えますが、そんなことはなく彼は彼女の秘密を最初から知っています。

チアリーダー(人間)の部長に意見できない新人のアディソンの上下関係は明白ですが、バッキーに秘密を握られているアディソンという観点でもうっすらと力関係が示唆されているのが興味深いところです。

キーパーソンはゼッドの妹

ゾンビーズ』はゼッド、アディソン、バッキー、人間たち、ゾンビたちの5組でシナリオが進行していきます。ゼッドやアディソンにもそれぞれ友人たちがいて、見事なダンスパフォーマンスを披露していますが、彼ら以上に物語を動かすキャラクターがいます。ゾンビの女の子ゾーイ(キングストン・フォスター)です。

ゾーイはゼッドの小さな妹で、高校に通っていないので登場シーンは限られています。しかし彼女には相反する存在である人間のチアリーダーに興味を持ち好意的であるという性質があります。彼女にはアディソンのようなコンプレックスはありません。幼く純粋なことから、人間たちの差別への意識が希薄であり、人間の懐にも入り込む度胸があります。彼女の存在が他のキャラクターの心情を左右するところもありおいしい役どころとなっています。ぜひその活躍を見届けてください。


ゾンビーズ2』は主人公の描き方が丁寧な続編

ゾンビーズ』から2年後、続編の『ゾンビーズ2』が放送されました。



以下、『ゾンビーズ』のネタバレを含みます。



『2』では、ゾンビ、人間のほかに狼族という第三勢力が現れます。『1』でゾンビとの共存の道を選んだ人間でしたが、『2』で狼族の出現により反モンスター法が復活。狼族だけでなく再びゾンビにも行動制限が設けられてしまいました。アディソンは狼族から「君も狼族かもしれない」と告げられ、狼族こそが自分の居場所かもしれないと思うようになります。一方、ゼッドはそんな狼族をなかなか認められず、アディソンともギクシャクしてしまいます。

人間 ……じゃなくて狼族

白い髪のコンプレックスがきっかけで、この社会で生きづらい非人間に手を差し伸べるアディソンの行動基準は一貫しています。逆にゼッドは立場が変わったことで、『1』で受けていたような偏見を『2』ではする側になってしまいます。『2』は『1』のアディソンの行動動機を補足し、またゼッドの「ゾンビ」としての振る舞いとは違った「人間」としての振る舞いを映し出します。「単にお話の続きを作りました」ではなく、前作を踏まえた上で丁寧にキャラクターを深掘りしている印象を受けました。

丁寧だからといって面白いかどうかは別問題なので、そこの評価は是非皆さんの目で確かめてご判断いただきたく。

このシリーズで描かれるもの

いよいよ2022年7月15日配信開始となる『ゾンビーズ3』は、『ゾンビーズ2』のラストシーンを踏まえた作品となります。『1』でゾンビ、『2』で狼族を描いてきた本シリーズが『3』で遭遇するのはエイリアンです。これまで差別と反省を繰り返してきた人間たちですが、今度はエイリアンにも疑いの目を向けているようです。ポリリズムと言わんばかりのこの繰り返し感、『ジュラシック・パーク』シリーズを彷彿とさせます。

『1』と『2』は偏見を持つ側/持たれる側の関係を主軸にして、「差別はいけない」「違いを認め合おう」「団結しよう」というメッセージを発信しています。それとは別に、全体を通して「自分の居場所を求める少女の物語」が展開されています。『2』の意味ありげなラストの続きが描かれる『3』ではどのような結末を迎えるのか。ぜひ『1』『2』を踏まえて見届けてみてください。