ディズニー データベース 別館

「ディズニー データベース」(https://w.atwiki.jp/wrtb/)の別館です。日本の誰か一人にでも響けばOKな記事を書いていきます。

【連載】幻のねずみ #01『10年目の夢と目覚め』

f:id:disneydb23:20210103155652j:plain

※この物語は事実をモチーフにしたフィクションです。


1965年7月17日。

地球上で最も幸せなテーマパークは開園10周年を迎えた。

人々は一人の男の夢が作り出した世界の中に入り込み、その精巧さを全身で感じることができる。

アトラクションはテーマランドや物語の世界観を実際に体験して回ることができ、レストランではその土地の雰囲気や味を体験することができた。

ショップでもお土産を買う人々が列を成している。

その遊園地ではエンターテイメントでも人々を楽しませ、ショーやパレードは客の人気を集めていた。



入園した客を迎えるメインストリートは古き良き時代の通りを模したショッピング街となっている。

園内の中央にはハブがあり、そこから各方向に進んでいくとそれぞれのテーマランドの光景が広がっている。

自然と冒険の国では、熱帯のジャングルを船で進むボートライドが名物となっている。

開拓者の国には広々とした河が広がっており、散策型施設の島や立派な蒸気船が航行している。

西部開拓時代の街並みは、さながら開園当時に人気を博していた英雄の物語を思わせる世界だ。

未来の世界には人類の夢である未来や宇宙をコンセプトにしたコンテンツが揃っており、ゴーカートや、当パークが誇るモノレール、ジュール・ヴェルヌの世界を描き上げた映画の展示などがある。

おとぎの世界では、おとぎ話の世界やキャラクターをモチーフにしたアトラクションが並んでおり、客はお気に入りの作品の世界に飛び込むことができる。

ハブの奥に立派にそびえる城もすっかりランドマークとして貫禄のある姿を見せていた。

しかし…。

私たちのお気に入りのあの人気者に出会える場所はまだ見ることは出来ないのだった。



私がこの記念すべき日にこのテーマパークにやってきたのは、とある一人の男に会いに来たからである。

彼こそがこのパーク、もとい人々に夢を与える企業を育ててきた張本人と言うべき人物である。

彼の活躍がなければ、この映画やテレビ番組、テーマパーク、音楽、コミック、その他あらゆる要素は存在しなかったと言っても過言ではない。

彼は園内を行き交う人々の姿を、嬉しそうに眺めていた。

私は後ろからそっと近づいた。

声を掛けたいが、一歩間違えればルール違反だ。

自分は星になって消えてしまうかもしれない。

でもここでたじろいでいては前に進むことはできない。

私は意を決して彼に声を掛けた。

すると、彼は「ようやく来たんだね。待ってたよ。」と振り返りながら答えた。



その瞬間、私の身体はふわっと宙に浮かび、周りの景色は一瞬で真っ黒になった。

振り返った彼の顔はぼんやりとして光の粒に包まれており、はっきりとは見えなかった。

私は遠のく意識の中で懸命に彼の声に答えようとした。

「僕を待っていた…?」

彼は光の粉に顔を隠したまま「あぁ、そうだよ。」と答えた。

「私には君の力が必要なんだ。」

私は混乱した。

今、自分が話しているのは誰なのか。

そもそも、自分は誰に会いに来たんだっけ。

数分前の記憶が頭から溶け出すように抜けていく。

「僕は確か今、テーマパークにいたんだけど…」
「あぁ、でもそのテーマパークは本来存在しない。そして君も存在しない。」
「存在しない?」
「うん。あのテーマパークが存在するかは君にかかっている。だから、私たちを……あの人を助けてほしい。そのために迎えに来たんだ。」

私が戸惑っていると、彼は「君にしかできないことだ。君には彼を導いてほしい。大丈夫。君のすべきことは君が一番よく分かっている。そして、困った時も彼女が助けてくれる。心配ない、彼女は信頼のおける存在だよ。」と続けた。

相手の言葉を聞き取るのもやっとに感じるほど、自分の感覚は薄れていた。

「始まるんだ。すべては一匹のねずみから…」

彼はそう言いながら指をパチンと鳴らすと、次の瞬間、私は騒がしい列車の中にいた。

周りをキョロキョロと見渡す私は一切の記憶を失っていた。

<つづく>


登場人物

◆私
物語の語り手。


史実への招待

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年の『ディズニー データベース 別館』では、いつものコラム記事を休載しまして、ウォルト・ディズニー生誕120周年記念特別企画『幻のねずみ』を連載します。

「もしもウォルト・ディズニーの生涯がとんでもファンタジーでドラマ化されたら」をテーマに、ディズニーの歴史をベースにしたフィクションをお届けします。

フィクションの後には、その回にちなんだディズニーの歴史を『史実への招待』と題して補足していきます。

フィクションをきっかけに本当のディズニーの歴史に興味を持つもよし、『史実への招待』だけざっと目を通すもよし。

新たな気付きや、興味を広げるきっかけになればと思います。

さて、今回の舞台となっていた1965年は、とあるテーマパークの10周年の年ということでしたね。

さて、これってどこのテーマパークのことなんでしょうか…?

ちなみに、1965年はディズニーの公式誌『Disney News』が創刊された年でもあります。

これは年4回発行された雑誌で、テーマパークや新しい映画の情報を掲載していました。

この雑誌はディズニーランドの入場料金優待制度であるマジックキングダムクラブの特典として、会員には無料で配布されていました。

1994年には情報量の増加に伴いリニューアルを実施し、『Disney Magazine』に改名しました。

2001年になると、マジックキングダムクラブの終了に伴い発行部数が減少。

2005年の夏、ディズニーランド開園50周年の節目のタイミングにて発行を終了しました。

インターネットの普及による需要の低下により、一つの長い歴史が幕を閉じたのです。